

マンションの一室。
女がソファに身を横たえ、おくれ毛をかきあげながら男に言った。
女は二十七、八歳。
男はもう四十になる年頃であろうか。
「そう簡単にいかないことくらいよくわかっているだろう。それよりか女房が死んでくれれば話はよほど簡単だぜ」
女は鼻でせせら笑った。
「ふん。本当に死ぬものならね。呪い殺しだなんてバカらしくてお話にもならないわ」
「いや、それが違うんだってば。これは正真正銘のジプシーの秘伝なんだ。今までにだって成功した例はいくらでもあるんだぜ。だからこそ、大金を投じてこのナイフを借りてきたんじゃないか」
ナイフの柄には絡み合う二匹の蛇が彫ってあった。
鋭くとがった切先があやしい光を放っていた。
よく見ると所々に不気味な血曇りがある。
なるほど。
これなら、これまでにいくつかの生命を呪い殺したように見えなくもない。
女は依然として気乗りがしない様子でタバコの煙を吹き上げていたが、それでも、
「このナイフでどうするのよ?」
「死んで欲しいやつの写真にこれを突き刺すのさ。写真が血を吹けば、それでおしまい。そいつは三日以内に血を失って死ぬんだ」
「バカらしい」
「いいじゃないか。せっかく女房の写真まで用意してきたんだ。やるだけやってみようぜ。さ、オレが持ってるから突き刺しな」
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