
「残念ですが、もう…」
懸命に手当てをしていた医者は、心配そうに立ち尽くしている両親にそっと言った。
昭和五十年二月十六日、大分県の安岐に住む前沢圭子さんは、心臓病のため医者から死亡を宣告された。
両親や祖父母たちは、圭子さんの十二年間という短かった生命に涙を流し、少女の死体を抱きしめ、名残を惜しんだ。
だが、それから二十四時間後、奇跡が起こり圭子さんは生き返ったのである。
「圭子ちゃん…」
家族はもちろん近所の人たちもみなびっくりしていた。
だが、もっとみんなを驚かせたのは少女が話した、少女の見てきた死後の世界のことであった。

少女は次のような死後の世界を見てきたのだった。
空をはじめ、あたり一面が真っ赤なところに私は立っていた。
立っている足もとの上も血のように赤かった。
どんどん通っていく人がいたので、その人について歩いた。
だが、足がとても重く、全身がまるで鉛のようで思うように歩けない。
喉が焼けつくように熱かった。
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それでも歩かなければならなかった。
というよりは、自然に足が前へ前へと出た。
やがて、青々とした樹木がいっぱいに生い茂り、とても美しい花の咲いているところに出た。
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よく見るとたくさんの人が寝そべって草花を摘んだりして遊んでいたが、声をかけても口を聞こうとしなかった。
顔のつぶれた人や、手足のない人もいたが、身体半分がつぶれている人もいた。
「春ちゃん⁉︎」
私は思わず声をあげてしまった。
そこに、淋しそうな顔をして立っている少女を見つけたのだ。
それは一年ほど前に一家心中をした親友だったのである。
私と春ちゃんの視線がぴったり合ったとき、彼女の顔に一瞬、喜びの色が浮かんだ。
そして、小さな声で「圭ちゃん!」と呼び、私の方に近づいたが、すぐにまた厳しい表情に変わって、
「来てはいけないわ!」
と叫び、両手で私を押し戻すような身振りをした。
私の身体は何かわからない力に押され、気がついたら生き返っていた。

圭子さんの話に家族たちはびっくりしながら、彼女を死の世界から押し戻してくれた春ちゃんの冥福を祈るのだった。
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