吉沢礼子さん(二十二歳)は京都市に住むスラリとしたスタイルの細面で目と唇のとてもきれいな娘だった。
昭和四十一年の五月初め、礼子さんは人生の新しい門出の準備に大わらわだった。
挙式を十日後に控えた彼女は晴れ着の仕上げや彼との新居を見に行くやら家具を調べなおすやらで多忙な毎日を送っていた。
とても幸せだった。
その日、礼子さんは家に来た結婚相手の彼と食事を共にしてから久しぶりに友人からの便りに目を通し始めた。
どの手紙も彼女の新しい門出を祝うものばかりだったが、やがて一枚の便箋をなにげなく見た礼子さんは驚きの声をあげ、血の気を失ってしまった。
手にした便箋は震える手の中でガサガサと音を立てた。
その便箋は長野にいる親友からの手紙の中に入っていたもので、乱暴な男文字で、
「おまえは、永遠に僕のものだ」
とだけ、記されていたのだ。
「こ、この字は根津さんの…」
礼子さんは息もつまりそうだった。
見慣れた乱暴な男文字こそ、彼女がその処女を捧げてまで愛した男の筆跡だったのだ。
二年前、彼女は高校を卒業すると親友と一緒に東京に行き、ある商事会社のタイピストになり、夢のような楽しい生活を送り始めていた。
ある日、礼子さんは公園で見かけたポール・アンカによく似た根津洋一さんを一目で好きになってしまった。
根津さんもまた彼女を心から愛した。
彼女は自分から処女を捧げてその愛の深さを示した。
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二人はアパートを借りて同棲した。
根津さんは日曜日など朝から彼女を抱きしめてベッドから出さないほどで、彼女にセックスの楽しみを教えた。
だが、二人の蜜のような甘い生活も、二ヶ月目、根津さんの妻が訪ねてきて壊れた。
彼には結婚二年目の妻がいたのだが根津さんはそのことを礼子さんに話さなかったのだ。
二人の仲は引き裂かれた。
しかし、礼子さんはどうしても根津さんを忘れることができなかった。
気持ちのうえでは妻のいることを隠していた根津さんを恨んだが、彼女の肉体は彼を恨むどころか彼がひそかに訪ねてくるのを待っていた。
「いや!もう離れるのはいや、死んで!」
数日後、根津さんがやって来た時、彼女はその胸にすがりつき心中をせがんだ。
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