3分間怪談

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    「そんなバカなこと信じるなんて…。それよりか、もっとまじめに奥さんと別れることを考えてよ」

    マンションの一室。

    女がソファに身を横たえ、おくれ毛をかきあげながら男に言った。

    女は二十七、八歳。

    男はもう四十になる年頃であろうか。

    「そう簡単にいかないことくらいよくわかっているだろう。それよりか女房が死んでくれれば話はよほど簡単だぜ」




    女は鼻でせせら笑った。

    「ふん。本当に死ぬものならね。呪い殺しだなんてバカらしくてお話にもならないわ」

    「いや、それが違うんだってば。これは正真正銘のジプシーの秘伝なんだ。今までにだって成功した例はいくらでもあるんだぜ。だからこそ、大金を投じてこのナイフを借りてきたんじゃないか」


    男はそう言いながらカバンの中から細身のナイフを取り出した。

    ナイフの柄には絡み合う二匹の蛇が彫ってあった。

    鋭くとがった切先があやしい光を放っていた。

    よく見ると所々に不気味な血曇りがある。



    なるほど。

    これなら、これまでにいくつかの生命を呪い殺したように見えなくもない。

    女は依然として気乗りがしない様子でタバコの煙を吹き上げていたが、それでも、

    「このナイフでどうするのよ?」

    「死んで欲しいやつの写真にこれを突き刺すのさ。写真が血を吹けば、それでおしまい。そいつは三日以内に血を失って死ぬんだ」

    「バカらしい」

    「いいじゃないか。せっかく女房の写真まで用意してきたんだ。やるだけやってみようぜ。さ、オレが持ってるから突き刺しな」

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    小さな窓から見下ろすと、氷滴をいっぱいにつけた翼があった。
    飛行機はいまE山脈の上空あたりを飛んでいるのだろう。
    モクモクと一面にひろがった雲海の中に、ときおり、孤島のような山頂が頭を出している。
    私は少し眠ろうと思ったが、どうも眼がさえて眠れそうもない。
    出張先で起きた仕事のトラブルが頭の中にいつまでも残っていて、スッキリした気分になれなかった。
    長い旅行だった。
    家族たちはみんな元気でいるだろうか。
    早く家に帰って子供たちの顔が見たかった。

























    「キャンディーはいかがですか」
    急に耳元でスチュワーデスの声が聞こえたので、私は目をあげた。
    「あ」
    私は思わず小さな声をあげた。
    スチュワーデスがふり向いた。
    「どうかなさいましたか」
    私はもう一度しげしげとスチュワーデスの顔を見つめた。
    「いえ、べつに…」
    私は少なからず狼狽した。
    ゆっくり考えてみれば少しも驚くことではない。
    ただの記憶ちがいではないか。
    スチュワーデスは知人の妹によく似ていた。
    "似ている" というより多分本人だろう。
    その知人は、知人といってもそう近しいあいだがらではない。
    学校時代に親しくしていた友人・N君の、そのまた知人で、顔を見ればちょっと会釈をするような、その程度の知り合いであった。






















    そんな知人の妹なのだから、いままでに彼女と話したことはない。
    ただ、彼女の職場が私の勤務先に近いらしく、向こうは気がついていなかっただろうが、以前はよく電車の中やビル街で顔を見たことがあった。
    しかし…私の記憶では、その女はたしか何か月前に "死んだ" はずであった。
    N君といつかコーヒーを飲んだとき、
    「キミも知ってるKさんの妹、このあいだ急死してしまってね」
    こういわれて
    「ああ、そう」
    と、なにげなく答えた…そんな記憶が私にはあるのだ。
    "死んだ" 人間が、こんなところでスチュワーデスをやっているはずはない。
    人違いだろうか?
    いや、そんなことはない。
    なんども見なれた顔なのだから…。
    しかし、ゆっくり考えてみれば、そう驚くほどのことではなかった。
    つまり私の聞き違いだったのだろう。
    そう親しい知人のことではなし、N君もどこからか間違ったうわさを聞いたのかもしれない。
    それに、だれかべつのお嬢さんのこといったのを私が勘違いしたのかもしれない。
    このての勘違いは世間ではよくあることだ。仕事のことをあれこれ考えていたので、ついウッカリ妙な連想をして、思わず声をあげてしまったのだろう。


















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    【呪われた銀翼】の続きを読む

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    「べつに動機って、ないわ。歩行者天国へ行ったらヒヨコをうっていたの。なんだかかわいくなって三羽買ってきたのよ。それがだんだん大きくなって…。二羽は死んじゃったけれど」
    女は食卓のパンをちぎっては白色レグホンのメス鳥にエサを与えていた。
    レグホンは驚いたような顔で周囲を見まわしながらエサをついばんでいる。
    「ペットがニワトリとはめずらしい」
    「意外とかわいいものよ。それに、このレグちゃん、頭がわるくないわ」
    「そうかね」
    「私が外から帰るって来ると、足音を聞いただけでちゃんとわかって、コッコ、コッコと、あまえ声をあげて鳴くのよ」
    「部屋の中で飼ってて、家主に文句をいわれないのかい」
    「このアパートは家主じゃなくて管理人だからね。鼻ぐすりをきかせてあるから大丈夫よ」
    「なるほど」







    男は一か月ほど前に女と知り合い、今では週に一、二度女のアパートに訪ねて来ては泊まっていく。女は三十二歳。月賦デパートに勤めるハイ・ミスだが、ものごとにこだわらない性格らしく、自分の年齢について深く気にやんでいるふうもなかった。部屋のすみにボロくずを敷いたダンボールの箱があって、そこがレグホンの寝床らしい。












    「このトリ、タマゴを生む?」
    「生むわよ、たまに。あたしは食べないけど」
    女はよほどこのニワトリが気に入っているのだろう。
    男が訪ねて来ているときでさえ、彼女の関心は男よりニワトリのほうに余計に向いているように思えた。
    この家では食事をするときもニワトリと一緒だ。
    ベッドで抱き合うときも、そばでレグホンがバタバタと羽根を鳴らしていた。
    男は閉口したが、女の城に訪ねて来ている以上、そう贅沢は言えなかった。
    二人の交際が長びくにつれ、男は妙なことに気がついた。
    女の仕草が少しずつニワトリじみてくるのである。
    たとえば、駅で待ち合わせをする。
    女が先に来て待っているとしよう。
    すると人混みの中でキョロキョロと前かがみになって待っている姿が、どことなく、あのレグホンに見えてくる。
    女にはおくれ毛をかきあげる癖があったが、その手つきもニワトリが爪先で胸毛をかきあげる動作にそっくりだ。
    そればかりではない。
    男が一番滅入ってしまうのは、女のまなざしが、ニワトリのキョトキョトした目つきに少しずつ似てきたことである。
    「ペットは飼い主に似てくるというけど…」
    「そう。レグちゃんも私に似て、わりとのん気で大ざっぱなタチね」
    「飼い主の方がペットに似るってことはないのかな」

    「あるかもしれないわ。どう?あたし?」
    「うん。このごろ少しずつ似てきたような気がする」
    男は苦笑いしながら本音を吐いた。
    「本望だわ」
    こう言って女はうれしそうに笑った。

              ☆

    【ニワトリを飼う女】の続きを読む

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    朝のオフィス街。
    ビルの谷は深い。
    まだ昇りきらない太陽が長い斜影を道に落としている。
    清められた路上をときおりタクシーが走り抜ける。
    早番のオフィス・ガールが歩道にコトコトと足音を響かせて急ぐ。
    ポプラ並木の芽が青い。
    青年は地下鉄の出口を駆けあがると、灰色のビルのドアを押しあけた。
    ドアの脇には年取った守衛がひとり立っていて、青年の姿を認めると、
    「おはようございます」
    とていねいに声をかけた。
    「おはようございます」
    青年は少し胸をそらして答え、そのままいそいそと正面のエスカレーターに足を運んだ。
    あたりにはまだサラリーマンたちの姿はない。
    ヒッソリとしたビルの中を銀色のエスカレーターだけが、かすかな音をあげ、バリカンのような踏み板を上へ上へと運びあげている。

    青年はエスカレーターの上で、もう一度背筋を伸ばし、ゆるんだネクタイをキュッと締めた。

    「さあやるぞ」
    からだの中に活力がみなぎってくる。
    興奮が頬を染める。
    だが、そのとき、青年はエスカレーターの前方を見上げて、
    「はて?」
    と首をかしげた。
    「このエスカレーター、何階まで行くのだろう?」
    見上げる限り細い道が続くばかりで、エスカレーターのきざはしが見えない。
    銀色のバリカンは、軽い、なめらかな音をたてて上へ上へと進み、いっこうに"終わり"の見える気配がない。
    青年がふり返ると、彼がたったいまくぐり抜けたガラスのドアは、もうはるか足下にあって、一階のロビーはミニチュア細工のように遠い。
    その中で制服の守衛が、黒い虫ケラのようにうごめいていた。

    もう七階か、八階か、いや、それどころではあるまい、もう十五、六階の高さまでは来ているだろう。

    青年はあわててニ、三歩階段をおりてみた。
    だが、エスカレーターが登る速度のほうが速い。
    彼がいくらあせってみても、いまさら下へおりることはできない。
    エスカレーターの両側にすでに大理石の壁がせまり、青年はただまっすぐに立って前に進むより仕方なかった。
    エスカレーターは相変わらずグングンと上へ登る。
    いったいどこまで登るのだろうか?
    青年は目を閉じた。
    目の奥にエスカレーターのきざはしが現れた。
    高山の断崖にも似た、高い、深いきざはしであった。
    そして、そこまでたどりついた自分が、まっさかさまに陥穽へ落ちていくさまも目に浮かんだ。
    「これがサラリーマンなんだな」
    青年はなぜかそう思った。
    春四月、初出勤の朝であった。







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