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「これ、砂が落ちるまでに、ちょうど二分かかるんです。体温を計るときに便利ですよ」
隣のベッドに寝ている男がささやいた。
ガラスの筒を倒すと薄曇色の流砂が音もなく滑り落ちる。
私はそれを見ながら体温計を口にくわえた。
ガラスの冷たさが唇にここちよい。
このぶんでは熱は四十度をくだるまい。
体はベッドにキッチリ固定され、激しい疼きだけが肢体のありかを教えてくれた。

隣の男が細い声で尋ねた。
「ええ。あなたも?」
「そうです」
今朝がた山手線の架線事故があって、電車が数十分遅れた。
都会に住むものならば、きっとご存知にちがいない。
ラッシュアワーに事故が重なると、どれほど "すばらしい" 混雑となるか…。
ターミナルのA駅は、私鉄から送り込まれる乗客でホームも地下道もみるみるふくれあがり、とりわけ狭い階段のあたりでは数百の黒い頭が押しあい、へしあい、帯となって巨大な怪物のように蠢いていた。
⭐️美女満載

「危険ですから列を作って順序よくお進みください」
駅員が声をからして呼びかけるが、先を急ぐ乗客たちは一歩でも早くホームに出ようとして争う。
ギイギイと階段のきしめく音が不気味だ。
「おい、押すな」
折しもまた新しい電車が到着してネズミ色の群れを吐き出した。
列の背後から津波のように黒いうねりが起こり、それがそのまま重い流れとなって階段の際まで走った。

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