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    石本

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    NON よろこびレーベル 日本近代ロマン書房

    長崎市内にある病院で看護婦をしている山田梅子さん(二十六歳)は、昭和四十四年十月十八日のその日は休日だった。

    彼とドライブをし、彼のアパートで甘いひとときを送って、病院の宿舎に帰ったのはもう午後十一時をまわってからだった。

    「彼って本当にすてきだわ…」

    梅子さんは、体内に残る彼の肌のぬくもりに酔いながら、けだるい下半身をふらつかせて、宿舎に近づいていた。

        


    「あっ」

    宿舎わきの薄暗い歩道にきたとき、そこにうごめく白いものに彼女は思わず息を呑んで立ち止まった。

    思い返していた彼との甘い夢も一瞬にして吹き飛ぶ異様な雰囲気があった。

    「だ、だれ⁉︎」

    彼女はかすれる声で聞いてみたが、なんの返事もない。

    そこで、恐々と星明かりにすかしてみると、そこには古いスタイルの白地のツーピースを着た一人の女性がうずくまっていた。

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    〈まあ、冬だというのに白地の服を着て…〉

    梅子さんは、不思議に思いながら、注意深くその女性に近寄り、声をかけた。

    「どうしたのですか?」

    女性は血のしたたる右手首をハンカチでおさえ、とても痛そうに顔をゆがめていた。

    「まあ、さあ、お薬をつけてあげましょう」

    梅子さんは無言のままじっと痛みをこらえている女性を宿舎の自分の部屋に連れて行き、お手のものの手当てをしてやった。



    ところが、その女性は初めから終わりまで、おしのように一言も口を聞かず、ときおり背筋の冷たくなるような目を梅子さんに向け、頭を下げるだけだった。


    「お茶でもいれましょうね」

    梅子さんは、おし黙っている女性の気分をほぐし、怪我をした理由などを聞いておこうと思い、コーヒーをいれに、ドア一つへだてた隣室に行った。

    一分たらずで引き返したが…

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    「あら⁉︎」

    そこに女性の姿が見えないのに呆然となった。

    「失礼しちゃうわね、あいさつもしないで」

    面倒を見てもらいながら一言もあいさつせず、姿をくらましてしまった女性に梅子さんは腹を立てた。

    だが、その女性がドアの音も、靴の音もさせずに消えたということに気づいたとき、彼女は青くなって震え上がり、悲鳴をあげて友人の部屋へ駆け込んだ。

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    《スリラー番組》

    団地の一室。

    タカシが妻のミツコに言った。

    「また流行歌番組か。スリラーに替えろよ」

    ミツコは新聞のテレビ欄を見ていたが、

    「だって、英会話と能楽中継とそれに、クラシック…スリラーなんかやってないわよ」

    「そんなはずないよ。お隣で見てるもん。それ、昨日の新聞じゃないのか?」

    「バカね、今日のよ」

    「でも、ほら、聞こえるだろ」

    なるほど、耳を澄ますと壁越しに聞こえて来る。

    ……お願い、お金は出すわ、命だけは助けて……金なんかいらねえんだ、このアマっ…ギューッ、クッ、ク、ク、ク。

    「ラジオかな」

    「そうかもね。ねえ、明日早いんだから寝ましょう」

    二人は灯を消した。

    ラジオにもスリラー番組はなかったのだが……。

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    《ガンの特効薬》 

    ヤマダ夫人が半信半疑の表情でサトウ夫人に尋ねた。

    「奥さま、ほんとにこのお薬を飲めばガンでしなないんですの?」

    「ほんとですとも」

    「実はね、うちの主人に少し疑いがございますのよ。少しわけていただけませんかしら?」

    「ようございますとも」

    「失礼ですが、お代はいかほどかしら?」

    「五万円いただきますわ。その代わり、もしガンで亡くなられるようなことがあったら、そっくりお返ししましてよ」

    ヤマダ夫人は五万円で小さな薬ビンを買い取り、いそいそと帰って行った。

    それから数時間後、ヤマダ夫人があわただしく駆け込んで来た。

    「サトウさんの奥さま!大変です。主人に薬を飲ませたら目を白黒させて、心臓がト、ト、ト……」

    「止まったんでざあましょ。だからガンでは死なないと申し上げたじゃありませんか」



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    メディアアーツ きゃっち

    昭和四十三年七月二十三日、太田俊一さんは、逗子へ通じる道を深夜、車を飛ばしていた。

    カーラジオからはセクシーな女性アナウンサーのささやきかけるような甘い声がムード音楽にのって流れていた。



    二週間以上も禁欲生活をさせられた太田さんにとっては、耐えがたいようなささやきで幾度かスイッチを切りかけたが、やはり聞かずにはいられない魅力的なアナウンスだった。


    「もうすぐ帰るからね」

    彼の帰りを待ちわびている愛妻のことを、あれこれ想像しながら彼が一段とスピードをあげ、橋を渡りきったときだ。


    突然、ヘッドライトにピンクの透けて見えるようなネグリジェを着た女の姿が映った。

    そこは、人家もまったくない、野原の中の一本道と所だった。

    DUGA

    「ちぇっ、気違いとちがうか?」

    太田さんは吐き捨てるようにつぶやきながらスピードを落とし、女を避けるようにハンドルを切ったが、女は道の真ん中に立っていて、太田さんに車を停めるよう手を振った。



    真夜中の道に寝間着姿の女…。

    太田さんもやはりやはり男、ミステリーめいた考えを思い浮かべながらも女の前で車を停めた。

    DUGA 

    「ううっ…美人だ」

    太田さんはドアをあけながら思わず心の中で叫んだ。

    確かに、女は目鼻立ちのよく整った、稀に見る美女だった。

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    「どうしたのですか?」

    車から降りた太田さんは女に近寄りながら声をかけた。

    女の身体からは彼の心を燃え上がらせるような、甘い香りがプーンとただよってきて、欲求不満の太田さんに軽いめまいを感じさせた。

    DUGA

    女は黙っていた。

    太田さんがなにを聞いても口を開こうとしなかった。

    「勝手にしたまえ!僕は急いでいるのだ」

    腹を立てた太田さんは女に背を向けると車に引き返してエンジンをかけたが、前を見て、ハッとなった。

    女の姿が見えないのだ。



    「おかしい女だなあ…」

    隠れるような場所もないというのに、女の姿が影も形もなくなっているのにあきれながら、車をスタートさせた太田さんは、スーッと流れ込んできた甘い香りにハッとなり、後ろの座席を振り返って青くなった。


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    ファインピクチャーズ メディアバンク

    「どんな夢って…それが麻雀の夢なんですがね。私にはとてもいやな夢でした」

    N先生は額の脂汗を手の甲で拭いながら照れ隠しでもするように少し笑った。

    あまり出世とは縁のない、どこか人柄のよさそうな中年の医師である。

    病院の宿直室には今どきめずらしい蚊帳が吊ってあって、その草色の網目が扇風機の風を受けてかすかに揺れていた。


    N先生はその中にあぐらをかいている。

    枕許には小さなテレビが一つ、もう深夜の放映を終わって、白い画面だけが室内に光を投げていた。

    蚊帳の内外は薄暗く、ほとんどお互いの顔も見えない。

    新人のN先生は、私を病院の事務員かだれかと勘違いしているらしい。

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    「ひどくうなされていましたよ」

    と私が言うと、N先生は、

    「そう…深夜番組を見ているうちに、ついうたた寝をしてしまった」

    と、答えた。

    時刻はもう午前二時に近いのではあるまいか。

    病院はシーンと静まりかえって、音のない黒い夜があたりを支配している。

    DUGA

    「廊下を歩いていたら、この部屋からうめき声が聞こえて来たものですから…」

    「ありがとう、本当にこわかった」

    「どんな夢でしたか?」

    「うーん、それが…」

    N先生は頭をトントンと握りこぶしで叩いてからボソボソと低い声で話し始めた。

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    「実は私は前にもこの病院に勤めていたことがあるんですよ。今から二十年くらい前、結核病棟に…」

    「はい。知ってます」

    「あ、ご存知ですか。まだインターンを終えて二、三年のホヤホヤの医師でしたがね。昭和三十年頃ですから、結核病棟も大入り満員で、病棟では肺切除の手術がとても流行っていた頃です」

    「ええ…」

    「あの頃、私は独身でしたからネ、病院に泊まり込んでよく麻雀なんかして遊んでいましたが、入院患者の中にも好きな人がいましてね」

    「結核病棟の患者はみんなひまをもてあましていましたからね」

    「うん。病院の規則じゃ、クランケの麻雀は禁止されていたんですけど中にはコッソリ隠れてやっている連中も大勢いました」

    「六種併用とかなんとか言って…」

    「そう。あなた、よくご存知ですなあ、あの頃のことを…。パス、ストマイ、ヒドラジッドの三薬のほかにクランケが勝手に酒、タバコ、麻雀を併用したりして…。今見た夢はその頃のことなんですがね」

    「ほう……?」


    昭和三十年と言えば、この市立病院の結核病棟にも常時三百名近い肺結核の患者が入院していた。

    大部分は中軽症の患者で、二、三年の療養を終えて退院していく。

    めざましい新薬発見のおかげで肺結核は昔ほどおそろしい死病ではなくなっていたが、それでも死者がまったくなかったわけではない。

    とくに手術の失敗(もちろん病院側はけっしてそういう表現を採らなかったが)による死亡率は思いのほか高く、死亡しないまでも全身の状態が手術前よりはるかに悪化し、こんなことなら手術をしないほうがよかったというケースがけっして少なくなかった。


    N先生は昔を思い出すような口ぶりで話し続けた。

    「夢の中で私が病室に入って行くと、四人のクランケが卓を囲んで麻雀をやっていました。これが現実ならば、クランケも大慌てで毛布かなんかをかぶせるところなんでしょうが、夢の中では四人とも平気で打ち続けています。私も私で、根が嫌いな方じゃありませんから、一人のクランケの背後に立って、じっとゲームの進行を見物していたわけです」

    「はい」

    「そのときドラは八索で、彼の手の内には八索が三枚もありました。しかも、だれかがカンをして王牌をめくると、もう一枚七索が出ました。八索がダブルのドラになり、暗刻ならば、もうそれだけで六翻でしょう」

    「すごい手ですね」

    「そのうち対面でリーチがかかり、その男は自分に不要な八萬を自摸ってきました。男は対面の捨て牌を見て、じっと考え込んでいましたが、少なくとも八萬は安全牌ではありません。でも、こっちはもう一息でハネ満から倍満になろうという手ですねからねえ。私はためらっている彼に言いました。

     "おりるのはもったいないよ。八索が三枚もあるんだから、八萬を思い切ってきるんだな"

    それでも彼はイジイジと迷っています。

    "そうですねえ、でも……"
    "あなた、負けているんでしょ"
    "ええ…。でも、このまま終われば、わずかな負けですむし…"
    "そんな弱気を言っちゃダメだ。男なら絶対八萬を切るべきだ"

    私はほとんど命令でもするように強い語気で言いました。

    "そうですか。先生がそうおっしゃるんなら…"

    彼は元気のない声でこう言って、しふしぶ八萬を捨てました。

    "ロン。それだ"

    とたんに対面が大きな声をあげて牌を開きました。目もくらむほど大きな手です。その瞬間、男がうらめしそうに私のほうを振り向いて、

    "命取りになりましたね"

    痰の絡んだような声で言うんです。

    DUGA

    顔は灰のように白く、眼は焦点も定まらずボンヤリと虚空を見つめています。明らかに死んだ人間の表情です。紫色の唇だけがヒクヒクと動いていました。
    気がついてみると、その男は私のクランケでした。彼は一年前に右の肺を三分の二ほど切除し、残った左の肺にも、まだ大きな病巣があると言う重症患者なんです。
    死人のような表情で見つめられ、私はおそろしくなって逃げようとしましたが、足がすくんで動けません。
    灰色の、木の枝のような手が私の白衣を握ろうとしています。恨みがましい死人の顔がグングン大きくなって私の目の前に迫ってきます。
    たぶんこの時ですよ。私がうなされて、おそろしい声をあげたのは…」

    「きっとそうでしょうね」


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    【一般外来】この街1番の「超美乳」若妻さん(正面あり)
    DUGA

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    真夜中の怪談 眠れない夜のゾッとする話 25話
    インディ(ゴールデン街ホラーズ)
    2020-11-02



    「幸男君、危ない!」

    風向きが突然変わったため、帆を張っていたロープを手からすべらせた伊藤さんは海をぼんやり眺めている幸男さんに声をかけた。

    だが、次の瞬間、幸男さんは飛んできた帆にあおられて、あっという間に海に落ちてしまった。


    泳げない幸男さんは水のなかで手足をバタバタさせながらヨットの上の友達を呼んだ。

    帆に追い風を受けたヨットはどんどん離れていった。

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    「おーい、助けてくれっ!」

    幸男さんが頭から水をかぶりながら、必死で助けを呼び、両手で水面をたたいているときであった。

    突然幸男さんの左足を何かがつかまえて引っぱったのだ。

    幸男さんの身体はブクブクと水中に引き込まれていった。


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    ここは千葉県の立山海岸沖、昭和四十一年七月二十九日のことだ。

    ようやくのことで引き返してきた伊藤さんたちは、水を飲みながらもがいている幸男さんに、浮き袋を投げてやった。


    だが、ヨットの上から海の中を見た伊藤さんたちは、驚きに息をつまらせた。

    なんと、青い海の中でまっ白に見える、肉がちぎれ骨の露出した人間が幸男さんの左足をつかまえ引っぱっているではないか。


    「おい、あれは水死人の幽霊じゃないか?」

    伊藤さんたちは、話に聞いたことある海の幽霊を思い出して叫んだ。

    幸男さんは必死になって浮き袋につかまっているが、水死人に引っぱられて幾度も浮き袋ごと水中にもぐりかけていた。


    【水死人の指跡】の続きを読む

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    K氏は駅の改札口を抜けると、コートの襟を立てて顔を隠した。

    誰かに見られたらバツが悪い、と思った。

    しかし考えてみれば、そう恥ずかしがることもない。

    K氏が家を空けたのはたった三日間だけ。


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    だれも蒸発しようと思ったことなど知るはずがない。

    K氏は出張にでも出たように家を留守にし、そしていつものように帰ってきたのだ。



    ことの起こりはK氏の性格が優柔不断だったからである。

    K氏は四十三歳。

    勤務先は中どころの保険会社で、ポストは課長補佐だ。


    三日前の朝、K氏が出社すると部長室に来るように呼ばれた。

    人事異動をひかえ昇任の噂が流れていた。


    「キミを課長に推薦したんだが…」

    と、部長は金ぶちの眼鏡の下からK氏を凝視し、おごそかな声で続けた。

    「遺憾ながら今期も見送りになった。ま、次の機会を待ってくれたまえ。気掛かりのことにキミは管理者としていささか決断力に欠けるという評価がある。私もそう思う。その点、今後くれぐれも気をつけてくれたまえ」

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    K氏はあたまから血の気が引いて行くのを覚えた。

    そういう評価が部長会議で語られるようになっているのか。

    そんな評判があるようではしばらく課長になれないだろう。

    部下たちが "万年補佐" と呼んで笑っているのが耳の奥に響いた。


    思い返してみれば、部長がそう言うのもむりがない。

    早い話が先日配下の非常勤職員の首切りを命じられたときのことだ。

    K氏は課長の厳命を受けながら、非常勤の雇員たちの泣き言を聞くと気の毒になり、スゴスゴと課長のところへ戻って彼等の窮状を訴えた。


    課長は苦い顔をしながら、この不況時にはまず人件費の節減が急務であり、非常勤の整理は会社の規定方針であることを繰り返した。

    クリスタル映像

    言われてみれば、その通り。

    会社は非常勤職員に対してまで不景気のときに堅く義理を立てる必要はない。

    K氏が課長の説明を伝えると、それを立ち聞きしていた課員の中から、非常勤職員は低い賃金で充分それに見あうだけの仕事をしているのだがら、こんなときこそ彼等をうまく使うほうがいいという意見が起きた。



    みんなK氏の優柔不断ぶりをよく知っているから勝手気ままなことを言うのである。

    K氏はご丁寧にもその意見を課長のもとへ持って行った。

    課長は眺めていた書類で机を叩き、返事もせずに席を立った。

    K氏がウロチョロしているうちに労働組合がこの話を聞きつけ、たちまちゴタゴタが始まった。

    イマジン

    こんなことでは上層部の覚えがめでたくなるはずはない。

    決断はいつも迅速でなければいけないし、いったん下した決断はめったなことで変更してはいけない。

    これは管理者として絶対忘れてはならない鉄則だ。

    K氏もよく知っているつもりなのだが、いざその時になると、色々な意見に耳を奪われ右往左往してしまう。

    サラリーマンとして大成はおろか課長になるのさえおぼつかなかった。

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    昭和四十四年三月十日、青森県青森市でのことだ。

    田代純子さんは、大阪に出張している恋人の山岡賢一郎さんへ、長文の手紙を書いた。

    別れてからまだ五日しかならないが、純子さんにはもう一カ月以上も逢っていないようか気がした。

    彼女は恋しい気持ちを詳しく書き、最後に署名のかわりに、真紅のキスマークを押した。

    そして十一時すぎに、手紙をしっかり抱きしめながらベッドに入った。

    そして、純子さんが彼に抱かれた夢を見ながら、寝言を言ってるとき、突然入り口のドアがノックされた。

    彼女は楽しい夢を破られた不満を露骨に表しながら、ドアを開けたが…。

    「まあ、賢一郎さん…」

    廊下に立っている恋人の山岡賢一郎さんの姿を見て、態度をガラリと変えた。

    「ねえ、いつ帰ったの、どうして知らせてくれなかったの?」

    彼女は彼を招き入れながら立て板に水を流すように問いかけた。

    しかし、賢一郎さんは黙って彼女を見つめるだけで一言も口を聞かなかった。

    「ねえ、泊まっていくでしょう。私、淋しくてさっき、手紙を書いたばかりなのよ」

    純子さんは、上機嫌でベッドをなおすと、彼の服を脱がせようとしたが、

    「まあ、どうしたの?」

    服についている血を見て顔色を変えた。

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    賢一郎さんの着ている服は、かなりの泥と血で汚れていた。

    彼女は短気な賢一郎さんがケンカでもしたものと早合点して、慰めの言葉をかけながら服を脱がせようとしたが、賢一郎さんはそれを拒んだ。

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    (画廊で)

    客 「これが美人の絵ですか。先生の絵はまるでわかりませんな。どこが目だが耳だか店」

    画家 「これが現代の美人画なんだ」

    客 「へーえ。うちの娘を嫁にもらってくれませんか」

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    (散歩道である

    男 「この踏切は交通事故が多いんだ」

    女 「そう。電車が見えにくいものね」

    男 「うん。電車がスピードを出しているんで、人間がズタズタになってふっ飛ぶよ」

    女 「いやだわ。どうしてそんなところを散歩するの?」

    男 「この犬が好きなんだよ。ときどきご馳走が落ちているんで…」

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    (会社で)

    社長 「サラリーマンはなぜネクタイを締めるか知っているかね」

    社員 「いえ、存じません」

    社長 「犬と同じだよ」

    社員 「はぁ?」

    社長 「首にヒモをつけました。どうぞご自由に動かしてくださいってことなんだ」

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    (病室で)

    患者 「先生。誠に申し上げにくいことなんですが、こんなに手厚い治療を受けても、私には貯金も財産もなくてお支払いできそうもないんです」

    医者 「生命保険には加入しているんでしょう?」

    患者 「……ええ」

    医者 「けっこう。ではご心配なく」

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    (玄関で)

    坊や 「アーン アーン」

    母親 「どうしたの?」

    坊や 「ボクとお姉ちゃんと15も年がちがうだろ。だから学校でみんながバカにするんだ。"しずくっ子、しずくっ子"って」

    母親 「いやねえ。でも、坊や、あなたはしずくっ子なんかじゃないわよ」

    坊や 「ほんと?」

    母親 「ええ。坊やのころは、パパはしずくも出なかったの」

    ハメらんど

    (研究室で)

    科学者A    「地球は年々温かくなっている」

    科学者B    「南氷洋の氷は溶け始めているそうだ」

    科学者A    「氷がみんな溶けると海水が増えて、現在の陸地の半分は海の底になってしまう」

    科学者B    「そうですとも。えー、高原の分譲地はいかがですか?」

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    (雪山で)

    男A    「大変です。雪崩にあってみなさんが膝まで雪に埋まりました」

    男B    「膝まで?」

    男A    「はい」

    男B    「それじゃあ大したことないよ」

    男A    「ええ、まあ…」

    男B    「助けにいくことはないよ」

    男A    「ええ、まあ…」

    男B    「……何か心配があるのかね」

    男A    「いえ、べつに…。ただ、みなさん、逆さになっているようですから…」

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    (刑務所で)

    囚人 「ひどいじゃないか。刑期が過ぎたのに、10日も余計に服役させるなんて…」

    刑務所長 「申しわけない。書類に不備があったもので…」

    囚人 「申しわけないだけで済む問題じゃないだろう」

    刑務所長 「だから約束しますよ。この次には、きっと10日短くするから」

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    怪談 (角川書店単行本)
    ラフカディオ・ハーン
    2022-09-28



    昭和四十三年七月十八日、鈴木満寿夫さんは富士山の山小屋でただ一人夜を明かしていた。

    写真家の鈴木さんは、その日、風景写真を撮りにきたのだが、つい撮影に夢中になり、下山する時間が遅れてしまいこの小屋で一夜を過ごすことになったのだ。

    真夜中ごろ鈴木さんはざわめきにハッと目を覚ました。

    それは人間のうめくような動物の争うような不気味なものだった。


    「なんだろうな?」

    鈴木さんはランプを手に小屋の外まで調べたが、なんの姿も見えなかった。

    小屋に戻ると鈴木さんはランプの灯を大きくし、グラフを見はじめた。

    不気味なざわめきが耳について、とても眠れそうになかったからだ。

    【おっぱい朗報】爆乳女子大生さん、ガチでヤバい!コスプレ乱交ファック魔法のオイル使用でガンギマリ絶頂へ 生ハメ中出しどぴゅぴゅぴ

    グラフにはセクシーなポーズのヌード写真が数多くあった。

    そのなかには、妻のある鈴木さんと特別な関係を持つモデルも入っていた。

    鈴木さんは彼女の露出した大きな乳房を指で突いてみた。

    気のせいか感触が柔らかく、彼女と寝たとき乳房に触れたのと同じ感じが体内に伝わってきさえした。

    鈴木さんの指は胸から腹部へ、さらに薄いベールで隠された部分にまで走った。

    そして指は再び彼女の顔に戻り、その唇を指でピンとはねた。

    彼女の笑顔がくずれたように鈴木さんに見えたときだ。

    突然、ランプの灯がスーッと小さくなり、消えてしまった。

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    【空飛ぶナイフ】の続きを読む

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    某私立大学の教授をしている江戸川政治さんが、宮崎市へ仕事をしにきたのは、昭和四十二年八月二十九日のことであった。

    江戸川教授は "S" ホテルの一室に落ち着くと原稿を書きはじめた。

    静かな部屋のなかには原稿を書くペンの音だけが聞こえる。

    教授が夢中で仕事をしている間に古風な柱時計が時を告げた。

    ペンを置き時計を見ると、十時をさしていた。


    教授は書きあがった十数枚の原稿をそろえると、パイプに火をつけそれをふかしながら、書き終えた部分の原稿を読み返した。

    どれほどたったろうか、また柱時計が鳴った。

    てっきり十一時だと思った教授は椅子から立ちあがり時計に目をやった。

    が……。

    「おや、おかしいなあ?」

    と思わずつぶやいた。

    時計は九時をさしているではないか。

    さっき鳴ったとき時計はまちがいなく十時をさしていたのだが…。



    教授は都会のそばに行き、じっとそれを見た。

    時計はコチコチと時を刻み、針は動いている。

    だが、なんということだ。

    その針は逆回転しているではないか…。

     

    「不思議な時計だ?」

    教授が時計に手を触れようとしたときだ。

    今度は窓辺の壁にかけてあった絵の額縁が、ガラガラと音を立てて動きだしたのだ。

    「地震かな?」

    教授は部屋の中を見わたしたが、動いているのはその額縁だけで、ほかの額縁も天井から吊るした電灯も動いていないのだ。

    小首をかしげた教授が机に戻りかけたとき、またしても奇怪なことがもちあがった。

    机の上に置いた分厚い本が、スーッと空中に浮きあがり空中でページがぱらぱらとめくられたのだ。

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    吉沢礼子さん(二十二歳)は京都市に住むスラリとしたスタイルの細面で目と唇のとてもきれいな娘だった。

    昭和四十一年の五月初め、礼子さんは人生の新しい門出の準備に大わらわだった。

    挙式を十日後に控えた彼女は晴れ着の仕上げや彼との新居を見に行くやら家具を調べなおすやらで多忙な毎日を送っていた。

    とても幸せだった。



    その日、礼子さんは家に来た結婚相手の彼と食事を共にしてから久しぶりに友人からの便りに目を通し始めた。

    どの手紙も彼女の新しい門出を祝うものばかりだったが、やがて一枚の便箋をなにげなく見た礼子さんは驚きの声をあげ、血の気を失ってしまった。

    手にした便箋は震える手の中でガサガサと音を立てた。


    その便箋は長野にいる親友からの手紙の中に入っていたもので、乱暴な男文字で、

    「おまえは、永遠に僕のものだ」

    とだけ、記されていたのだ。

    「こ、この字は根津さんの…」

    礼子さんは息もつまりそうだった。

    見慣れた乱暴な男文字こそ、彼女がその処女を捧げてまで愛した男の筆跡だったのだ。




    二年前、彼女は高校を卒業すると親友と一緒に東京に行き、ある商事会社のタイピストになり、夢のような楽しい生活を送り始めていた。

    ある日、礼子さんは公園で見かけたポール・アンカによく似た根津洋一さんを一目で好きになってしまった。

    根津さんもまた彼女を心から愛した。

    彼女は自分から処女を捧げてその愛の深さを示した。

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    二人はアパートを借りて同棲した。

    根津さんは日曜日など朝から彼女を抱きしめてベッドから出さないほどで、彼女にセックスの楽しみを教えた。

    だが、二人の蜜のような甘い生活も、二ヶ月目、根津さんの妻が訪ねてきて壊れた。

    彼には結婚二年目の妻がいたのだが根津さんはそのことを礼子さんに話さなかったのだ。

    二人の仲は引き裂かれた。

    しかし、礼子さんはどうしても根津さんを忘れることができなかった。

    気持ちのうえでは妻のいることを隠していた根津さんを恨んだが、彼女の肉体は彼を恨むどころか彼がひそかに訪ねてくるのを待っていた。


    「いや!もう離れるのはいや、死んで!」

    数日後、根津さんがやって来た時、彼女はその胸にすがりつき心中をせがんだ。


    【死者からの手紙】の続きを読む

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    《喫茶店で》

    娘A   「アメリカじゃ赤ちゃんを売る母親がいるらしいわ」

    娘B   「残酷よねえ。あとで自分が売られた赤ちゃんだとわかったら、すごいショックよね」

    娘A   「ホント。その点、日本じゃ簡単に堕ろせるから…」

    娘B   「しあわせねえ」



    《精神病院で》

    患者 「先生。ボクは会社のコンピュータに恋しちゃって…。彼女のことを思うと気が狂いそうなんです」

    医者 「おやおや」

    患者 「しかしどんなに惚れてみたって結婚できるわけじゃなし」

    医者 「よくおわかりですね」

    患者 「そうなんです。社内結婚は禁じられているんです」




    《独身寮で》

    セールスマン 「ごめんください。結婚サービス・センターのものです」

    男 「結婚サービス・センター?」

    セールスマン 「はい、、ご婚約が相整いましたときには、ぜひとも私どもへご連絡くださいませ」

    男 「連絡すると、どうなるの?」

    セールスマン 「はい。式場、新婚旅行、洋服、指輪、家庭用電気器具、家具、アパート、その他結婚に必要なものはなんでも各メーカー、ホテル、旅行業者とタイアップいたしまして、ご予算に応じ流れ作業のようにお世話いたします。お二人は、もうベルトコンベヤーに乗ったように、ただ選ぶだけでたちまち新婚生活が始まり…」

    男 「それは便利だ」

    セールスマン 「はい」

    男 「で…そのベルトコンベヤーは、スイッチ一つで逆に戻すこともできるのかね」




    《牧場で》

    子ども 「ねえ、お母さん。ブタってどんなお仕事をするの?」

    母親  「生きているうちは、なんの役にも立たないのよ。死んでからとても役に立つの」

    子ども 「じゃあ、生命保険と同じなのね」



    《デパートの案内所で》

    少年  「おねえさん、早く…。ボクの兄さんが屋上から飛び降りようとしているんだ」

    案内嬢 「大変。110番かしら119番かしら…」

    少年  「ちがうよ。それより先にフィルム売り場はどこなの?」


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    《母と子の家で》

    母親 「タロウ、あんた、この頃髪が薄くなってきたね」

    息子 「オレも気にしてるんだ。父さんは髪の薄い人だったの?」

    母親 「そんなこと言ったって、タロウ…父さんはいつも帽子をかぶっていたんだから」


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    《アパートで》

    若い男A    「キミ、念力を信じるかい?」

    若い男B    「うん。信じる」

    若い男A    「どんなときに?」

    若い男B    「屋上の物干し場にオレのパジャマを干しておいたんだ」

    若い男A     「うん…?」

    若い男B    「それか隣の奥さんのネグリジェにからみついちゃってさ…」




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    『心中事件の女』
    昭和四十一年十二月二十九日、島根にある病院の一室は、静まりかえっていた。

    病室につめかけた患者の両親も医者や看護婦も無言のまま患者の様子を見つめていた。

    ベッドの上には心中未遂で収容された加藤時枝さん(二十一歳)が、青白い顔で不規則な呼吸をしながら眠り続けていた。





    時枝さんは、恋人との結婚を両親や親族の人に反対された。

    が、肉体関係があり妊娠までしている二人としては最後の手段の心中をはかったのだ。

    そして、男は死んだが時枝さんは他界寸前に発見され、病院にかつぎ込まれてしまったのだ。



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    「先生、助かるものでしょうか」

    母親が医者にそっと尋ねたとき、それまでまったく動かなかった時枝さんの身体がかすかに動き、重く閉ざされたいた目がかすかに開いた。

    「時枝!」

    母親は医者の制止も聞かずベッドに駆け寄り娘の両肩を揺さぶったが時枝さんにはそれが母親であることもわからぬまま再び深い眠りについてしまった。


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    もの憂いばかりにおぼろな春の午後、ニョッキリと宙にそびえ立った高層ビルの真上に純白の雲が一つ、動くともなくポッカリと浮いていた。

    ビルの最上部の広間にはサラリーマン風の男たちが数十人集まって先ほどから紫煙を吐きながらざわめいている。

    「いい日和だ」

    「まったく。麻雀なんかやってる日曜日じゃないなあ」

    「家族連れでピクニックにでも行けば、いいパパなんだが…」

    「それができないんだなあ、オレたちは」

    「アハハハハ。お互いに因果な趣味を持ってしまった」

    「しかし "お呼びのナカさん" も張り切ってるじゃないか。こんな見晴らしのいい部屋を借り切って」




    窓からのぞくと眼下には玩具のような自動車が色とりどりの屋根を見せ、そのあい間に小さくうごめく人の群れがあった。

    「みなさん、お待たせいたしました」

    ハンディ・スピーカーを持った男が部屋の片隅に立って声をあげた。

    それが "お呼びのナカさん" だった。

    「ただいまより新角ビル王座決定麻雀大会を開催いたします。ゲームの開始に先立って、この大会の名誉会長、四菱製機取締役発田万二郎氏よりご挨拶をたまわりたいと思います」




    紹介を受けて恰幅のいい紳士がマイクを握った。

    「本日はご多忙のところ、また日曜日であるにもかかわらず遠路はるばる麻雀大会にお集まりいただきまして、まことにご苦労様でございます…」

    名誉会長の頬に微笑が浮かんでいる。

    場内にも小さな笑いが波立っている。

    雰囲気はすこぶるなごやかだ。

    新角ビルに勤めるさまざまな会社のサラリーマンが、たとえその中のほんの一握りの人数にせよ、こうして会社の枠を超えて親睦の集まりに参加するのは今までに例のないことであった。


    ナカ氏はスピーチに耳を傾けながら心中ひそかに思った。
    「やれやれ、これで大成功。苦労の甲斐があったというものだ」
    ナカ氏は四十二歳、四菱製機総務部第二課の課長補佐である。
    麻雀歴は二十年を越え、実力はともかくルールにくわしいのと "つきあい" のいいことでは仲間内でつとに有名だった。
    三人メンバーがそろって、もう一人足りないときには決まって、
    「じゃあ、ナカさんを誘ってみようか」
    「うん、それがいい」
    連絡をとればナカ氏は万障繰りあわせて駆けつけてくれる。
    これが "お呼びのナカさん" と呼ばれるゆえんであった。

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    こんなナカさんだから若い頃にはせっかくのデートをすっぽかしたりすることも何度かあったらしい。

    「あたしより麻雀のほうが好きなのね」

    ガールフレンドになじられ、ナカ氏は頭をかきながら、

    「いや、そんなことはない。これも仕事のうちなんだよ」

    「さあ、どうだか…」

    「いや、本当だよ」

    一生懸命弁解したが、二度三度重なれば女は去ってしまう。

    それ以来デートにはめっきり縁がうすくなり、三十五歳を過ぎてからなんとなく見合いをし、結婚をした。

    男の子が二人生まれた。

    当然のことながら家族は "お呼びのナカさん" の最大の被害者だった。








    「あなた、ほどほどにしてくださいよ」

    女房にそういわれて、ナカ氏も何度か麻雀をやめようと思ったが三人の仲間に誘われると彼の性格としてどうしても断れない。

    「これも仕事のうちなんだよ」

    ナカ氏は口癖のようにいつもこう弁解していたが、そのうちにナカ氏の麻雀は確かに "仕事のうち" といった様相を帯びるようになった。


    ナカ氏は、 "つきあい" がいいばかりではなく、どんなメンバーとやっても大きく勝たないし、大きく負けもしない。

    だから、どこのグループからも気安く声をかけられ "お呼びのナカさん" の顔は会社ではもちろんのこと同系会社の中でも知れ渡るようになった。




    セクト主義の盛んな現代の企業の中では、こういう人間は仕事の上でも結構重宝がられる。

    課の壁、会社の壁を越えた仕事となると "お呼びのナカさん" は恰好な橋渡し役となった。

    同僚たちの中には、

    「なんだ。どこにでもフラフラ顔を出して…」

    と、苦虫を噛みつぶす人もいないわけではないが、

    「いや、あれはあれで大変な特殊技能だよ。大したものだ」

    こういう評価が大勢を占めた。


    上役にもナカさんの特殊技能を認める人が多く、去年の人事異動では高卒職員としては珍しい抜擢を受けて課長補佐になった。

    それに気をよくしたナカ氏がいわばご恩返しのつもりで計画したのが今日の大会だった。


    【第四の男】の続きを読む

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    「残念ですが、もう…」

    懸命に手当てをしていた医者は、心配そうに立ち尽くしている両親にそっと言った。

    昭和五十年二月十六日、大分県の安岐に住む前沢圭子さんは、心臓病のため医者から死亡を宣告された。

    両親や祖父母たちは、圭子さんの十二年間という短かった生命に涙を流し、少女の死体を抱きしめ、名残を惜しんだ。




    だが、それから二十四時間後、奇跡が起こり圭子さんは生き返ったのである。

    「圭子ちゃん…」

    家族はもちろん近所の人たちもみなびっくりしていた。

    だが、もっとみんなを驚かせたのは少女が話した、少女の見てきた死後の世界のことであった。




    少女は次のような死後の世界を見てきたのだった。


    空をはじめ、あたり一面が真っ赤なところに私は立っていた。

    立っている足もとの上も血のように赤かった。

    どんどん通っていく人がいたので、その人について歩いた。

    だが、足がとても重く、全身がまるで鉛のようで思うように歩けない。

    喉が焼けつくように熱かった。


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    それでも歩かなければならなかった。

    というよりは、自然に足が前へ前へと出た。

    やがて、青々とした樹木がいっぱいに生い茂り、とても美しい花の咲いているところに出た。



    【死をのぞいた少女】の続きを読む

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    「そんなバカなこと信じるなんて…。それよりか、もっとまじめに奥さんと別れることを考えてよ」

    マンションの一室。

    女がソファに身を横たえ、おくれ毛をかきあげながら男に言った。

    女は二十七、八歳。

    男はもう四十になる年頃であろうか。

    「そう簡単にいかないことくらいよくわかっているだろう。それよりか女房が死んでくれれば話はよほど簡単だぜ」




    女は鼻でせせら笑った。

    「ふん。本当に死ぬものならね。呪い殺しだなんてバカらしくてお話にもならないわ」

    「いや、それが違うんだってば。これは正真正銘のジプシーの秘伝なんだ。今までにだって成功した例はいくらでもあるんだぜ。だからこそ、大金を投じてこのナイフを借りてきたんじゃないか」


    男はそう言いながらカバンの中から細身のナイフを取り出した。

    ナイフの柄には絡み合う二匹の蛇が彫ってあった。

    鋭くとがった切先があやしい光を放っていた。

    よく見ると所々に不気味な血曇りがある。



    なるほど。

    これなら、これまでにいくつかの生命を呪い殺したように見えなくもない。

    女は依然として気乗りがしない様子でタバコの煙を吹き上げていたが、それでも、

    「このナイフでどうするのよ?」

    「死んで欲しいやつの写真にこれを突き刺すのさ。写真が血を吹けば、それでおしまい。そいつは三日以内に血を失って死ぬんだ」

    「バカらしい」

    「いいじゃないか。せっかく女房の写真まで用意してきたんだ。やるだけやってみようぜ。さ、オレが持ってるから突き刺しな」

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    【呪いのナイフ】の続きを読む

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    「これを車で遠山さんのところへ届けてくれ」

    父がいきなり僕に用事を言いつけた。

    「気が進まないなあ。今日は昭和四十三年三月十三日、 "三" が三つもつく日だ」

    僕は眉をひそめた。

    これには深いわけがある。

    僕は埼玉県大宮に住む木田国夫という二十三歳にぬるごく普通の青年だが、ひとつだけみんなと違うところがある。

    僕は "三" の数字に呪われているのだ。








    昭和二十三年三月二十三日、当時三歳の僕は恐ろしい火事にあい、もう少しで焼け死ぬ目にあっている。

    それ以来、 "三"  の呪いが僕につきまとっているらしい。

    昭和三十三年三月三日。

    十三歳の時、三階の階段から一階まで転げ落ちて、大怪我をしている。

    昭和四十二年九月十三日には草野球でピンチヒッターとして出場したが、このとき、3番のヘルメットをかぶっていたのが運の尽きだった。

    頭に三球目のボールが当たって気を失ってしまった。



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    こんなわけで僕は "三" のつくものすべてを恐れ、ひどく嫌うようになった。

    しかし父は僕の気持ちなど全然わかってくれないのだ。

    「ぐずぐず言わずに早く行って来い!」

    父にどなられて、僕は仕方なく車に乗った乗った。




    【「三」に呪われた男】の続きを読む

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    枕もとの時計を見てサトウ氏は "しまった" と思った。

    時刻は四時を十数分過ぎている。

    なんということだ。

    午前五時に集合と堅く命じられていたのに…。

    職場まで車を飛ばしても四十分はかかる。

    重大な職務をゆだねられていながら朝寝坊をするなんて、とても許されない。

    サトウ氏は布団を蹴って跳び起き、新しい下着と制服を身につけた。

    それから電気カミソリをポケットに突っ込み、車庫から車を出した。

    ハンドルを握りながら片方の手でひげを剃る。

    四時二十分。

    スピードを出せばギリギリ間に合うかもしれない。



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    昨夜はなかなか寝つかれなかった。

    まどろんだかと思うと、すぐにおかしな夢を見た。

    庭の片すみに高い木があって、緑色の木の実がぶらさがっている。

    近づいてよく見ると、みんな人間の首だ。

    瞳のない、白い眼が恐ろしい。

    驚いて目を覚ましたらもう眠れなくなった。

    時計が三時を打ったのを覚えている。

    いっそあのまま起きてしまえばよかったんだ。

    ついうとうとしたばっかりに寝過ごしてしまった。


    県道に入ってサトウ氏はスピードを八十キロにあげた。

    雨雲が垂れ込め、夜明けにはまだ間がある。

    こまかい雨と靄が視界をさえぎって見通しは最悪だ。

    速度計は確かに八十のあたりを指しているのに車の動きがやけにもどかしい。

    こんな時に限ってやたらと赤信号にかかる。








    今日ばかりはどうしても遅刻するわけにはいかない。

    サトウ氏はさらに車の速度をあげた。

    あと四分で五時。

    ようやく前方に長い灰色の塀が見えて来た。

    うまくいけばきわどいところで間に合うかもしれない。

    赤信号を二つ、スピードをゆるめずに突っ切った。

    ついでにもう一つ信号を無視しようとしたとき、急に塀のくぼみから黒いものが走り出た。



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    【時間外労働】の続きを読む

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    「これ、砂が落ちるまでに、ちょうど二分かかるんです。体温を計るときに便利ですよ」

    隣のベッドに寝ている男がささやいた。

    ガラスの筒を倒すと薄曇色の流砂が音もなく滑り落ちる。

    私はそれを見ながら体温計を口にくわえた。

    ガラスの冷たさが唇にここちよい。

    このぶんでは熱は四十度をくだるまい。

    体はベッドにキッチリ固定され、激しい疼きだけが肢体のありかを教えてくれた。






    「あなたも電車の事故ですか?」

    隣の男が細い声で尋ねた。

    「ええ。あなたも?」

    「そうです」

    今朝がた山手線の架線事故があって、電車が数十分遅れた。

    都会に住むものならば、きっとご存知にちがいない。

    ラッシュアワーに事故が重なると、どれほど "すばらしい" 混雑となるか…。

    ターミナルのA駅は、私鉄から送り込まれる乗客でホームも地下道もみるみるふくれあがり、とりわけ狭い階段のあたりでは数百の黒い頭が押しあい、へしあい、帯となって巨大な怪物のように蠢いていた。



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    「危険ですから列を作って順序よくお進みください」

    駅員が声をからして呼びかけるが、先を急ぐ乗客たちは一歩でも早くホームに出ようとして争う。

    ギイギイと階段のきしめく音が不気味だ。

    「おい、押すな」

    折しもまた新しい電車が到着してネズミ色の群れを吐き出した。

    列の背後から津波のように黒いうねりが起こり、それがそのまま重い流れとなって階段の際まで走った。




    【砂時計】の続きを読む

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    その絵を見たとき、今井宏子(仮名・十四歳)は瞬間なんとなくいやな気がした。

    「すごい迫力だろう。作者はわからないが、これを描いた画家は天才的な腕だよ」

    父親はそう言うと、インドから買ってきた一枚の油絵を宏子の部屋の壁にかけた。

    父親は貿易商。

    絵が趣味である。

    仕事で海外へ行くたびに掘り出し物の絵画を見つけては買ってくるのだ。

    しかしなんという不吉な迫力に満ちた絵なんだろう…。

    地平線の彼方にまさに沈もうとしている血のような真赤な
    太陽。

    その残照に染まった太い大樹の下で、頭にターバンを巻いた一人のインド人がひざまずき、祈りを捧げている絵だった。






    インド人の皮膚は、ひからびたミイラのような色だ。

    骨が飛び出し削り取ったような頬。

    そして黄色く濁った異様に大きい目。

    「いやだわ、こんな絵…」

    宏子はそう思った。

    昭和四十八年七月。



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    その夜はむし暑い夜だった。

    網戸をつけた窓をあけ放っても、風は入ってこない。

    真夜中、あまりの寝苦しさに宏子はふと目を覚ました。

    地虫のジーッという声が耳についた。

    と、その地虫の鳴き声にまじって遠く低くもう一つの別の声が宏子の耳に聞こえてきたのだ。


    その声は呪文のようだった。

    宏子はギョッと耳をすました。

    「オレが死んだとて、だれが泣いてくれよう。オレが死んだとて、だれが泣いてくれよう」

    声はそう言っていた。

    すすり泣くような男の声でそう言っていた。

    すぐ近くのようでもあり、遠くのようにも思える呪文めいた声。

    まるで宏子に向かってささやきかけるようなその声。

    宏子はタオル掛けを、頭からかぶると耳をふさいで震えていた。









    恐ろしい呪文は次の夜も聞こえた。

    三日目の夜がきた。

    宏子は恐怖で眠れなかった。

    やがて真夜中、またしても呪わしいあの声が聞こえてきたのだ。

    部屋の中に青白い月の光が差し込んでいた。

    激しい恐怖に襲われたが宏子は目をあけて声のする方を必死に探った。

    宏子の視線が壁の不吉な絵に向けられた。

    その瞬間、宏子は見たのだ。



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    チカッと絵の中の一部が変化したのを見たのだ。

    目だ。

    絵の中のインド人がまばたきをしたのだ。

    青白い光を浴びて、まばたきをしたのだ。

    「きゃーっ!」

    宏子はあまりの恐ろしさに悲鳴をあげた。


    彼女が原因不明の高熱を出したのはその夜のことである。

    高熱にうなされながら、

    「絵が…絵のインド人が生きている…」

    宏子はうわ言を言い続けた。

    「宏子、しっかりしろ。絵のインド人がどうしたというんだ」

    心配した父親は言った。

    「いや、いや、早くあの絵をはずして…ああ、また、また、声が…怖い…」

    父親にはわけがわからなかった。





    【不吉な油絵】の続きを読む

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    「幽霊の出る旅館がある」

    私は読者から手紙をもらうと、記者を連れて出かけていった。

    「本当に出るのですかね。僕は怖がりだからいやですね」

    記者は目的の駅に着き、電車を降りるときになって逃げ腰なことを言い出した。

    駅からタクシーで約二十分、その旅館は一般の旅館街からちょっと離れたところにあった。

    昭和五十年三月十八日、奥日光でのことである。





    「お客さん、どうしてこの部屋のことを…」

    旅館に着くと、私は二階の「梅の間」を使わせてくれるよう頼んだ。

    すると帳場にいた女主人が出てきて、私の顔を見るなり言った。

    女主人は私をテレビなどで見て知っていたらしく、やむなくその部屋を貸してくれることになった。

    「どうか原因を確かめてください」

    女主人は自分で梅の間に案内してくれてから言った。

    私がこのM旅館(女主人の希望によって本当の名前は伏せる)に現れるといわれる幽霊を調べにきたのは、東京の某商事会社のグループが次のような体験をしたからである。


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    永野さんら男女五人は二月の末、この旅館に泊まった。

    その日、夕食後彼らは街へ出てスナックに入った。

    「あの旅館には女の幽霊が出るんですよ。知ってますか?二階の梅の間と、二階の共同トイレにね…」

    スナックで働いている男はそんな話をしだした。

    その男はM旅館にも勤めていたことがあって自分でも体験したというのだ。

    「そんなバカなことがあるもんか。きっとあの男は旅館で働いていて何かがあり、いやみを言っているんだよ」

    永野さんたちは、だれ一人として男の言うことを信じなかった。

    男三人は梅の間、女二人は向かいの竹の間で寝ることになっていたがトランプ遊びをするために、広い梅の間に集まった。

    「どう見ても幽霊の出るムードじゃないわね」

    大川友江さんは、トランプをやりながらスナックでの話を思い出して言った。

    部屋は新しく壁などもまだまっ白であり、とても明るい感じの造りだった。





    「幽霊なんてでっちあげられたものに決まっているじゃないか」

    永野さんは頭から否定していた。

    午前一時近く、大川さんがトイレに立った。

    田村春枝さんを誘ったが彼女は応じなかった。

    トイレは共同になっていて、女性用入口を入ると中には五つのトイレがあって、五つのドアがみな開いていた。

    大川さんは向かって右から二つ目のドアを閉めた。

    そして用をすませて立ち上がった。

    「あっ!」

    えり首にヒヤリと冷たいものが触れたのである。

    だが、彼女はさして慌てもせず、きちんと身なりを整えてからドアに手をかけようとした。

    「あらっ…」

    ドアが開かないのだ。

    ドアはまるで釘づけでもされたようにビクともしないのだ。

    「だれっ、いたずらしてるんでしょう!」

    大川さんは、ドアに耳をつけ、外の様子をうかがったのである。

    だが、人の気配はまったくなかった。


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    【血染めの幽霊】の続きを読む

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    (電話口で)

    課長 「もしもし、タナカさんの奥さまでいらっしゃいますか?」

    奥さま 「はい、そうですが…」

    課長 「実は工場で爆発事故が起きまして、ご主人が……あの、お亡くなりになりました」

    奥さま 「あら?それならそうと四時より前に連絡してくださらなくちゃ」

    課長 「申し訳ございません。なにぶんにも突然の事故で混乱しておりまして…」

    奥さま 「それで…主人はなにか言っていましたか?」

    課長 「はい。最後のご伝言をひとこと…。今夜の夕食はいらないって」



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    (研究室で)

    学生 「先生。また本を貸してください」

    先生 「ああ、いいよ。どの本?」

    学生 「この前お借りしたのと同じような本を…」

    先生 「同じ著者の本かね?それとも同じテーマの本かね?」

    学生 「いえ。著者やテーマはどうでもいいんです」

    先生 「ほう……?」

    学生 「この前の本には一万円札が挟んでありました」


    (庭さきで)

    母親 「坊や、今日はなにをして遊んだの?」

    子ども 「みんなで電車ごっこをしたんだよ」

    母親 「そう。おもしろそうね」

    子ども 「うん。くじを引いて、二番の子が運転手で、三番の子が車掌になるんだよ」

    母親 「あら、一番の子はなんになるの?」

    子ども 「痴漢だよ」



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    (電車の中で)

    男A   「火事で家が丸焼けになったんだってな」

    男B   「うん。真夜中に "火事だ" って起こされてね」

    男A   「あわてただろう」

    男B   「もう膝がガクガクしちゃって、普段考えていたことなんかまるで手がつかなかったよ」

    男A   「なにも持ち出せなかったのかい?」

    男B   「現金と貯金通帳だけを」

    男A   「たいしたものじゃないか」

    男B   「しかし…女房を気絶させるのを忘れちゃって」


    (タクシー乗り場で)

    テレビ・リポーター 「タクシー料金の値上げが申請されましたが、どう思いますか?」

    運転手 「うーん。あげてほしいね。生活が苦しいから」

    テレビ・リポーター 「でも、大幅に値上げをすると、かえってお客の数が減るでしょう」

    運転手 「いや。わたしの場合は減らないね。お客さんの方も生活が苦しいからか

    テレビ・リポーター 「それ、どういう意味ですか」

    運転手 「うん。バック・シートに窓から見えるようにカラの財布を投げておくんだよ」








    (新婚家庭で)

    新郎 「君、もしかして、結婚指輪をはめる指を間違っていないかい?」

    新婦 「いいのよ。わたしたちの結婚も間違っていたんだから」

    (酒場で)

    父親A   「女の力は偉大だな」

    父親B   「そう思うかね」

    父親A   「うん。母親は、二十年間ただそのことだけを考えて、子どもを一人前の青年に育て上げるんだからなあ」

    父親B   「うん。まったく女の力はすごいよ。それを二十分間で馬鹿者に変えちゃうんだから」








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    「ああ、いい気持ち。儲けちゃったな」

    首までドップリ炬燵につかって私はテレビの深夜劇場を見ていた。

    新婚一年目で、住まいは民営アパートの四畳半。

    小さな炬燵がほしいと思って、昼間、裏通りの古道具屋さんで電気炬燵を一つ買って来た。

    それがポカポカと、とても暖かい。

    新品なんか買わなくて、ほんと、得をしちゃった。






    亭主はただいま出張中。 

    独りでのんびりとテレビを見ていると、いつの間にかうつぶせのままウトウト寝込んでしまった。

    …………

    初めはだれかがネグリジェのすそをそっとかきあげている、と思った。

    とても臆病な、とてもたどたどしい動作で…。







    「彼が帰って来たのかしら?」
    ボンヤリとそう思ったけれど、彼ならばもっとガサガサ乱暴な音をあげて入ってくるはずだし、それに今朝は鍵を持たずに出て行ったし…
    「私、夢を見ているんだわ」
    そう思って一層深く炬燵の中に潜り込んだ。
    そのうちに下着に手が掛かり、少しずつ脱がせ始めた。
    ちょっと動いては手が止まり、少し休んではまたモソモソと動きだし、ものすごく遠慮しているみたい…。


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    私は脱がせやすいように軽く腰を浮かせた。

    でも、これはみんな夢の中のこと。

    少しくらい冒険(アバンチュール)を楽しんでもいいと思った。

    だれかが四つん這いになって、うしろから私をじっと見つめている。

    視線がとても熱い感じ…。

    「恥ずかしい」

    そう思った。

    まるでケダモノみたい。

    でも、そう言えば、足もとで私を撫でているのも人間じゃないみたい。

    四つ足のケダモノかしら?


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    息子の弘一は、本が好きだった。

    とくに夜、床に入ってから本を読むのが癖になっていた。

    昭和四十二年四月のある夜。

    「ひゃわ、出た!」

    と、寝間着姿の弘一が、本を片手に握りしめて、部屋から飛び出してきた。

    「どうしたんだ…。二十歳にもなって、みっともない…」

    父親の私は、夜遅く子供のように騒ぐ弘一を叱りつけた。

    だが…。

    「お父さん、竹が…」

    弘一の言葉を聞いたとたん、私も真っ青になった。






    弘一の部屋に来てみると、青竹の先が四、五十センチほど畳を突き破って出ている。

    ごく普通のものだが、我が米山家にとっては恐ろしい呪いの竹なのだ。

    米山家は代々静岡県の三島市に住んできたが、十二年前、突然この青竹の呪いを受けるようになった。

    部屋に竹が出た日から、井戸の水がぴたりと出なくなり私の父親が急にどす黒い血を吐いて倒れた。

    あわてて医者を呼んだが、病名のわからない奇病だという。

    父親は全身が紫色になって、だんだん意識がなくなり、数日後には死んでしまった。








    すると、井戸の水が元通りに出はじめ、部屋の青竹はひとりでに枯れてしまった。

    この奇怪な現象は、その後二回起こり、私の妻と娘が死んだ。

    「たぶん、何かの祟りか呪いだ」

    私は、何度か神主にお祓いをしてもらったのだが、効きめはなかった。

    そのうえ、恐ろしい呪いの青竹が今度は息子の部屋に出たのである。




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    《山の主をいじめると、呪いをうける》

    この言葉を僕は信じている。

    そのわけをお話しよう。

    僕は東京都大田区に住む大学生、大羽義男だ。

    趣味は登山である。

    昭和五十年六月、僕は同級生の川島和夫君と二人で、秋田県にある田代岳に登った。

    二人が中腹にある沼の近くで弁当を食べているときだった。

    「大羽君、あれを見ろ…」

    川島君が沼の淵にいる大きなカエルを見つけた。

    体調が三十センチくらいで、身体が赤く、足が六本もある珍しいものだった。






    「よし、捕まえよう」

    僕は食事も忘れてそのカエルを追いまわした。

    大ガエルはすばしこくてなかなか捕まらない。

    「くそ!」

    腹を立てた僕は、先のとがった木の枝を投げつけた。

    木の枝はズバリとカエルの右目に突き刺さった。

    グエーッ!

    大ガエルはものすごい悲鳴をあげながら沼の中に跳び込んでしまった。








    「残念だったなあ。もう少しで捕まえられたのに…」

    僕たちは、旅館でも大ガエルの話をした。

    すると旅館の主人が顔色を変えて言った。

    「そのカエルは土地に人々から神様ガエルと呼ばれている山の主です。その目をつぶしたからには、あんたの目もつぶれますぞ」

    「まさか…そんなこと迷信だよ」

    僕はその言葉を信じようとしなかった。



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    家内を殺そうなんて、そんなだいそれたことを考えたことは一度もなかったんですよ。

    これは本当です。

    考えてみれば、ガミガミと口やかましいばかりの女で、金遣いは荒いし、家事はろくにやらないし、やさしいところは一つもないし、なんの取り得もないやつでしたからね。

    一生の不作です。

    こんな女とよくもまあ四十年も一緒に暮らして来たものだって、今思うと自分の辛抱のよさがつくづく不思議になりますよ。






    でも、殺人なんてぜんぜん頭に浮かばなかった。

    私は意気地なしだったんですね。

    それを教えてくれたのは、あの男なんです。

    あの男と言ってもご存知ないと思いますけれど…。



    彼は私の碁がたきなんです。

    先生と呼んだ方がよろしいのかな。

    白を持つのはいつも彼の方ですからね。

    初めのうちは「この手がいい。これは俗手だ」なんて、碁の手筋を教えてくれるだけでしたがネ、そのうちにいろいろと人生の教訓まで垂れてくれるようになりましてね。

    もし彼に会わなかったら、私もこんな気ままな余生が送れたかどうか…本当に感謝しているんですよ。


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    ええ、碁は昔から好きでした。

    しかしサラリーマンのころはなかなかいい相手に恵まれなくて…。

    私自身、偏屈で人づきあいのわるいほうですからね。

    だから本気で碁が好きになったのは仕事をやめ、彼と会うようになったからなんです。

    囲碁というのは奥行きの深い遊びでしょう。

    勉強すれば勉強するほどあきるということがありません。

    すっかり夢中になって、朝から晩まで、晩から朝まで、それはもう四六時中碁盤にしがみついていたい心境でしたよ。


    家内にはそれがおもしろくなかった。

    「そんなくだらない遊びをするより庭掃除をしろ」とか「職安にでも行って、なにか家計のたしになる仕事を捜せばいい」とか、口うるさく指図して、それでも私が知らんぷりをしていると、ヒステリーを起こし馬鹿呼ばわりをして碁盤を蹴とばすんですよ。


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    「なかなか快調じゃないか」

    商業デザイナーの難波竜夫氏(二十八歳)は、買い替えたばかりの新車を仲間にほめられ上機嫌だった。

    昭和四十年六月十一日、甲府での仕事をすませた彼は、仲間二人を乗せて夜になってから東京に戻った。

    「一杯やろうじゃないか」

    酒好きの彼にとって、酒という言葉は大きな魔力に似た力を持っていて、咽頭から手が出そうだった。

    だが、彼は今度新車を買うとき、妻の洋子さん(二十四歳)に、車を運転するときは絶対酒を飲まないことを約束していたのだ。


    彼が無念のツバを飲み込みながら、都心の繁華街にさしかかっとときだった。

    前方から、センターラインを越えて走ってきた車の上向きライトが彼の目に飛び込み、一瞬、目先が暗くなり、なにかに当たったショックに、彼はあわててブレーキを踏んだ。






    「しまった!」

    フロントガラスに飛び散った血と、口から血を吐いて倒れている洋服姿の中年婦人を見たとき、彼の全身の血は凍りつきそうだった。

    《くそっ、あの車さえ来なかったら…》

    彼は取り調べを受けているとき、フロントガラスとドアにべっとりとついたどす黒い血と、倒れて死んでいた婦人の姿を思い出しながら、ライトを上向きにして突っ走ってきた車をうらんだ。

    運転免許をとって六年、彼は一度も事故を起こしたことがなかったのだ。







    彼は長い取り調べにへとへとになって家に帰ると、車体についた血をきれいに洗い流し、眠っている妻は起こさずに、そっと床に入った。

    「ううっ…ううっ…」

    彼は眠ってまもなく、頭を割って血だらけになった女に追いかけられる夢を見た。

    それはさっきの中年婦人のようでもあり、また妻の洋子のようでもあったが…。

    女は、メチャクチャになった不気味な顔を彼に寄せ、血だらけの手で彼の首をしめつけた。

    彼は必死に逃げようとするが、足がもつれて動けない。



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