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    石本

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    《マンションで》

    女 「なんだかこのお部屋にすわっていると、いつもだれかにジーッと見られているような気がして、気持ちがわるいわ」

    男 「視線を感じるってわけか?」

    女 「ええ…」

    男 「いい勘をしているよ」

    女 「そう?」

    男 「うん、実を言えば、キミのすぐうしろの壁に、一人埋めてあるんだ」


    《オフィスで》

    サラリーマンA   「総務課のS子さん、あれで若い頃は、ずいぶんもてたんだって?」

    サラリーマンB   「うん。本人はそう言ってるな」

    サラリーマンA   「しかし、ひどい出っ歯じゃないか」

    サラリーマンB   「そこなんだよ、おもしろいのは」

    サラリーマンA   「なにが?」

    サラリーマンB   「彼女が言うには、ボーイフレンドがみんな熱烈なキスをしてすうものだからって…」


    《通勤電車で》

    サラリーマンA   「キミんとこの課長、家を新築したそうだね」

    サラリーマンB   「うん。エリート中のエリートだからな。家くらい建てられるだろうさ」

    サラリーマンA   「なにか新築祝いを持って行ったのか」

    サラリーマンB   「ああ、踏み台を一つ贈った」

    サラリーマンA   「踏み台?なんだいそれは?課長の注文か」

    サラリーマンB   「いや。オレたちを踏み台にしないでくれって…」






    《空き地で》

    子ども 「ボクんちではね、みんながなにかをほしがっているんだよ」

    大人 「そう…?」

    子ども 「ボクはね、ローラースケートがほしいんだ」

    大人 「なるほど。ローラースケートか」

    子ども 「うん。妹はね、着せ替え人形をほしがっているし、お母さんは新しいトースターをほしがっているんだよ」

    大人 「お父さんに買ってもらえばいいじゃないか」

    子ども 「そこなんだよ。お父さんは仕事をほしがっているんだ」


    《研究室で》

    研究員A   「おい。このごろはなにを研究しているんだ」

    研究員B   「うん。今考えているのは独身者のための "インスタント女房" ってやつさ」

    研究員A   「なんだい、それは?」

    研究員B   「袋から出してお湯をかけると、たちまち新しい女房ができるんだよ。どうだ、スゴイだろう?」

    研究員A   「ウーン。しかし…どうせ研究すんなら、既婚者のために、お湯をかけたと女房が溶けてしまうやつを先に頼むよ」


    《七月のマンションで》

    男 「首つり死体って、見たことあるかい?」

    女 「ないわよ、そんなもの」

    男 「オレ、一度見たことあるよ。崖の上から見下ろしたんだけどな」

    女 「どんなだった?」

    男 「そうだなあ。枝の下でユラユラ風に吹かれて、まるで紙みたいだったな」

    女 「あら、そういえば…」

    男 「どうした?」

    女 「さっき、ベランダから下の公園を見てたのよ」

    男 「うん…?」

    女 「大きな短冊だなって思ったけど、あれ、七夕さまじゃないのね」



    🟩美女満載




    【ブラックジョーク大全】の続きを読む

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    「あなたの年齢で急にアクアラング潜水を始めるのは、少し無茶かもしれませんねえ」

    ボートの上であらい息を吐く私に、指導員の男がなぐさめるように言った。

    私は五十五歳。

    たしかに今さら潜って海底散歩を楽しむ年ではないだろう。

    指導員は内心 "馬鹿なやつだ。いい年をして" と思っているにちがいない。

    だが、私には私なりの理由があってのことなのだ。



    「ええ。それはよくわかっているんですけどね。ただ、どうしてもやってみたいものですから」

    私はいいわけでもするように気弱につぶやいた。

    ドボーン。

    大きな水音が響いて黒い装備のダイバーが海の中へ落ちて行く。

    このあたりは水深十四、五メートル。

    箱めがねでのぞくと、ダイバーたちのもどかしそうな歩みがよく見えた。

    「年取ったダイバーは、このクラブにいないんですか」

    私は船の上のストーブで体を温めながら尋ねた。

    「そりゃ、いないこともないですけど、みなさん若い頃から基礎訓練をやっている人たちですからね」

    アクアラングの重量は十五キロもある。

    ウェット・スーツを着て、潜水マスクをかぶり、足ひれをつけ、そのうえにこの十五キロのアクアラングを背負うと、地上では相当の重労働だ。

    しかし水の中に入ってしまえば、浮力の影響を受けてほとんど重さを感じない。

    しかも私は子どもの頃から水泳ぎは得意だった。

    今でも四、五百メートルなら楽に泳げるだろう。

    だからアクアラング潜水くらいと、たかをくくっていたのだが、実際に訓練を受けてみるとこれがなかなか思ったようにいかない。

    高圧の酸素を吸うので呼吸の調節がうまくいかず、四、五分間も潜っていると、もう息が苦しく心臓がドキドキと今にも破裂しそうに動悸を打つ。


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    「あなたも若い頃からお始めになればよかったのに。二十年くらい前にも一度ブームがあったんじゃないですか」

    指導員の口ぶりは、まるで昔アクアラング潜水がはやったときに私がちゃんと遊んでおかなかったのをとがめているようにも聞こえた。

    今さらそんなこと言われたって仕方がないじゃないか。





    そう。

    私は小さいときから海が好きだった。

    水中めがねで見る海の底は神秘にあふれていて、いくらながめても見あきることがなかった。

    だから以前にもアクアラング潜水をやってみたいと思わなかったわけではない。

    「そうですね。二十四、五年前になりますかね。ゴルフやアクアラング潜水がやたらはやった時期がありましたよ。ただ、あの頃の私はレジャーどころじゃなくってね。なんとかマイホームを建てようと夢中になっていたものだから」

    私は苦く笑って言った。

    親父は一生借家住まいだった。

    家一軒建てることもできずに死んでしまった。

    子どもたちに何一つ残さずに…。

    だから私はサラリーマンになったとき、なんとか自分の働きで自分の家を持とうと思った。



    🟩美女満載




    【ライフ・ワーク】の続きを読む

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    🟩美女満載



    何歳に見えます?

    えっ、五十歳?

    ひどいなあ。

    いくらハゲ頭がピカピカ光っているからって…。

    まだ二十五歳なんですから。

    ホント、ホント。

    でも、こうきれいに頭の毛がなくなっちゃ、そう見られても仕方ないのかな。

    ハゲ頭になったのは中学三年生のときなんです。

    ううん、べつに病気じゃない。

    ボクはその頃、一流高校に入学しようと思って、塾に通いながら猛勉強をしていたんです。

    ボクよりママのほうが熱心だったけど…。








    だけど、ボクは生まれつき頭がよくないでしょう。

    いくら努力しても成績はサッパリあがらないんです。

    模擬テストを受ければ、いつもビリのほうだし…。

    とても一流高校なんか入れっこない。



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    そんなとき、ママが耳よりの話を聞いて来てくれたんです。

    ほら、ゼロックスとか、リコピーとか、書いたものがそのまま写る複写機があるでしょう。

    原理はあれとおんなじだと思うんです。

    いや、原理はまるでちがうのかもしれないけど、やり方はあれとソックリなんですよ。

    覚えなければいけないことを紙に書いて頭の上に載せ、そのまま複写機のお釜の中に頭を突っ込みます。

    強烈な光が頭の上を通過したと思うと、紙に書いてあることがみんな脳味噌に複写されるんです。

    本当ですよ。

    英単語だって、数字の公式だって、これで複写すればバッチリです。

    次から次へと、ドンドン詰め込めるから、スイスイ暗記ができちゃうんです。

    ただね、複写機に頭を入れるとき、髪の毛が生えていちゃ駄目なんです。

    記憶の邪魔になるでしょう。

    だから、どうしても頭をクリクリ坊主に剃らなければいけない。

    ボクの家は、おじいさんもロマンスグレイだったし、パパもまっ黒な髪だった。

    絶対にはげる血統じゃなかったけれど、まともな方法で勉強してたんじゃ一流校なんて無理だったもんね。








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    ザー、ザザー。
    シャワーの音にハッと目を覚ました母親は、こんな真夜中にいったいだれが、といぶきしげにまわりを見まわした。

    だが、起きだしてシャワーを浴びに行っている者は誰もいなかった。

    みな、昼の旅の疲れでぐっすりと眠っていた。

    「……。」

    母親は思わずベッドの上に半身を起こした。

    身を乗り出してシャワールームの方をうかがった。

    大きな水の音が確かにしていた。

    人の気配もあった。

    「お、お父さん!」

    気味が悪くなった母親は隣のベッドに寝ている夫を揺り起こした。

    そして震えながらシャワールームの方を指さした。






    父親は、眠い目をこすっていたが、やがてベッドからおり、そっとシャワールームに近づいていった。

    そのとき父親は急に背筋が冷たくなった。

    消したはずの電灯がつき、閉めたはずのガラス張りのドアがかすかに開いており、シャワーを浴びている髪の長い女性の姿がシルエットになって浮かび上がっていたのである。

    その女性は背の高さからいって、十四、五歳の少女で、娘の正子さんと同じ年ぐらいだった。

    「だれたっ!」

    父親はドアに手をかけながら、大声でどなった。

    と、その瞬間、少女の姿がスーッと消え、電灯も消えてしまった。

    父親も母親も恐怖のあまり息が止まりそうだった。





    🟩美女満載




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    「だから言っただろう。女はナルシストだから、絶対に麻雀は強くなれないって…」

    「あら、まだゲームが終わったわけじゃないわ」

    「じゃあ、オーラス行くぞ」

    青木が勢いよくサイコロを振った。

    土曜日の午後である。

    商社マンの青木はしゃれた雀荘の一室でクラブのホステス三人を相手に卓を囲んでいた。

    ことの起こりは三日ほど前の夜で、青木は銀座のクラブで社用の酒を飲みながら言った。

    「女は自分の力を冷静に判断することができないから、麻雀をやっても絶対ダメだね」

    するとホステスの眉子が横から口をはさんで、

    「そうかしら?あたし今までほとんど負けたことなくってよ」

    「それは相手が飴をなめさせてくれてんだよ」

    「そんなことないと思うわ。お金賭けてんですもの」

    「お金なんか…ものはためし、眉ちゃんが "体を張る" って言ってごらん。みんな本気にぬるから、まず勝てっこないね」

    「じゃあ、青さんやってみる?」

    「願ってもないね」

    「ぜひやりましょうよ」






    眉子は勝気なホステスである。

    短大を出てすぐこの世界に入り、二年ばかりのうちにナンバーワンを争うほどの売れっ子になった。

    器量は十人並み、客扱いもそううまいほうではなかったが、なぜか眉子ファンは多い。

    ヤンチャなお嬢さんみたいな明るさがあって、それが中年のおじさま族によく受けているらしかった。

    だがホステス業に好都合な性格が、そのままギャンブルにとってもプラスになるとは限らない。

    特に眉子のように短い期間で華やかな座に着いたホステスには、男の世界を甘くみるくせがぬぐいきれない。

    一流の客たちと毎晩飲んだり騒いだりしているうちに、自分もつい一流の人物になってしまったような、そんな錯覚にとらわれやすいものだ。

    お遊びの相手として適当にあしらわれているのも忘れて、ついつい自分の力を過信してしまう。

    こんな性格の人がギャンブルに強かったためしはない。





    「じゃあ、青さんが負けたらすてきなプレゼントをして。あたしが負けたら…いいわよ。お望みのものを進呈するから」

    青木が眉子の挑戦に応じたのはもちろんである。

    青木が考えた通り眉子の技量はたいしたものではなかった。

    聴牌をすれば、すぐにリーチをかける。

    あがれなかったときには自分の手を開いて、

    「ああ、ついてない。惜しかったわあ。倍満になるとこだったのに…」

    と、大仰にくやしがる。

    引っかけリーチでうまくあがったときなどは、

    「ね、うまい人なら当然出すはずなのよ「

    喜色を満面に浮かべて青木の顔を見つめた。

    半荘二度の約束で始めた勝負だったが、最初のゲームは青木の独り浮き。

    眉子はどうにか原点すれすれを確保したが、第二ゲームはいけなかった。

    オーラスを迎えて沈みは見二万点あまり。

    青木から約満貫でも奪い取らない限り、とても合計点で青木に勝つことはできなかった。




    ⭐️美女満載




    「このメンバーなら、何度やってもトップを取る自信があるな」

    「ついているだけよ。あたしだって、いつもはもっとつくのよ」

    眉子はまだ譲ろうとしない。

    「女はこれだから困る」

    「あっ、それ、ポン」

    眉子が緑發をないた。

    「眉ちゃん、約束は本当に守るのかい?」

    眉子は同僚のホステスに気がねをして、ちょっと目くばせをしたが、

    「守るわよ。青さんこそ負けたらダイヤでも贈ってよ」

    「これで終わりだろう。もう負けっこないよ。どうするんだ、緑發なんかないて?安いなあ」

    「ドラをたくさん隠してあるのよ」

    どうやら眉子には点棒の数もよくよめていないらしい。

    倍満であがってもまだ足りないのだ。






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    「それ、ロン」

    青木が八索を捨てると、眉子が声をあげた。

    「混一、緑發、チャカチャカ…満貫にならないわねえ?」

    「せいぜい五千二百かな」

    「あら」

    眉子が牌を開きながら手を止めた。

    「どうした?」

    「これ、ほら、なんとかっていうんでしょう?」

    「えっ」

    「オール・グリーンとか…」

    青木が身を乗り出した。

    「役満貫ね」

    「そうだ」

    「バンザーイ!それみなさいよ。負けるはずないのよ。いつだって絶対に勝つんですもの」

    勝負は一瞬にして大逆転となった。

    もし眉子が自分の手の大きさを知っていたら、興奮を顔に隠すことができなかっただろう。

    隠すことができなければ、青木がみすみす八索を振ることもなかっただろう。

    しかし今さら悔やんでみても仕方がない。

    負けは負けに変わりがなかった。

    「ね、そう見くびったものじゃないでしょう」

    「まあな」

    青木は言葉少なにうなずいた。

    当分は眉子の自慢話を聞かなければなるまい。

    思えば痛恨の八索であった。



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    【八索の女】の続きを読む

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    【稲川淳二 マブダチへの遺言】の続きを読む

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    【稲川淳二の怖い話】の続きを読む

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    あなたは一年生。
    もうすぐ七歳になる。
    家は木造アパートの二階で母さんはいつもいない。
    母さんは東町のレジャー・ランドでキップ切りをやっている。
    学校が終わると、あなたはアパートの鍵をあけ、だーれもいない部屋へ帰る。
    テーブルの上のおやつを食べ、ヤクルトを飲む。
    それから文字盤に漫画のいっぱいかいてある置き時計を見る。
    針が縦にまっすぐになるまでには、まだまだたくさんの時間、待たなければならない。
    あなたはプラモデルや、模型飛行機のセットを出して見る。
    工作は大好き。
    だけど工作はとてもむつかしくて、いつも上手に作れない。







    急に窓の下で子供たちの声が聞こえる。
    あなたは大急ぎで部屋を飛び出す。
    ヤッちゃんとミサちゃんは仲よし。
    マコちゃんは意地悪だ。
    でも五時を過ぎると、みんな家へ帰ってしまう。
    あなたはもう一度ひっそりとしたアパートの部屋へ戻る。
    そして、少しだけテレビを見る。






    ボン、ボン、ボン、ボン、ボン、ボン。
    時計が六つ音を鳴らすと、あなたは待ちかねたように外に駆け出る。
    繁華街を走り抜け蛇屋の角でちょっとだけショウ・ウインドウを眺め、それから次の大通りを曲がって立体交差の踏切りを越せば、もうレジャー・ランドの裏門は近い。
    秋の日は西の向こうにストンと落ちて、さっきまで長い尾を引いていたあなたの影法師も、今はもうどこかへ逃げて行ってしまった。
    鈍色の空の下でネオン塔の光だけが、次第に確かな輝きに変わっていく。 







    「やあ、ヒロちゃん。お迎え?」
    顔見知りのおばさんが、あなたの頭を撫でながら柵をあけてくれる。
    レジャー・ランドの閉門は午後五時半。
    だからもうお客さんの姿はどこにもない。
    木馬も電車もロケットも、みんなシートをかぶり声を殺してうずくまっている。
    菊の香り。
    夜のとばり。
    風の静けさ。
    あなたは、いつか童話で聞いた動物たちの墓場のことを思い出す。
    菊の花は死人の匂いだ。
    夜の暗さは死人の国だ。
    そして音のない風は死人の声…。
    冷たさが心の中を走り抜ける。
    母さんはどこにいるのだろう?





       



    「ヒロちゃん」
    闇の中から突然声が聞こえて、作業服のまま母さんが近づいて来る。
    母さんはポケットからガムを突き出す。
    あなたは黙って受け取る。
    うれしい。
    でも、それを顔に出すのが恥ずかしい。
    ガムは甘くてハッカの味が喉にしみる。
    「明日から菊人形が始まるのよ」
    「菊人形って、なに?」
    「菊で作ったお人形よ。今、おじさんたちが作っているわ。見る?」
    「うん」
    母さんは、あなたの手を引いて歩きだす。
    急に西風が強く吹いて来て、あたりに散った紙屑をクルクルと廻す。
    ポップコーンの袋、ウルトラマンのマスク、焼きそばの紙皿。
    みんな小さな竜巻きに乗って空に舞いあがる。
    広告塔がガタガタと恐ろしい音をたてる。
    「あそこよ」
    母さんが指差す先にベニヤ張りの大きなバラックがある。
    あれはいつもお化け屋敷をやっているところ…。
    あなたは、そこで見た不気味な場面を思い出す。
    古井戸にさがる首、音もなく開く棺の蓋、老婆の青い手…。
    お化けは本当にいるのだろうか。









    「今晩は。ちょっと見せてくださいな」
    母さんが入口で声を掛ける。
    中に入ると、菊の香りがムッと鼻を刺す。
    天井は暗く、長く垂れた電球が、大きな菊の山をボンヤリと照らしている。
    おじさんたちが、木の棒を立て、針金を巻き、その上にせっせと菊の着物を着せていく。
    できあがった人形は、闇の中にスックと浮かびあがる白い影。
    おぼろな生命。
    あなたはブルっと身震いをする。
    「ほら、ヒロちゃん。乙姫さまと浦島太郎よ。きれいでしょう?」
    「うん」
    あなたは仕方なしにうなずく。
    母さんはこんなものが本当に好きなのだろうか。
    乙姫さまも浦島も、紙のようにしらじらと立っているだけなのに…。





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    【菊の香り】の続きを読む

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    「学校の地下室にお化けが出るらしいぞ」

    「そんなバカなことがあるもんか。おまえ、オカルト映画の見すぎだよ」

    「なにいってんだ。ちゃんと先輩から聞いたんだぞ」

    昭和四十九年八月十二日、九州佐世保市にある某中学校でのことである。














     「その先輩だって、自分で見たわけじゃないでしょう」

    村田美子さん(二年)も、お化けを否定する一人であったのだ。

    お化けがいるらしいという生徒四人、それを否定する生徒五人で口論は続けられた。 

    「それじゃ、先輩のところへ行って、はっきり聞いてみよう」

    村田さんたちは、さっそく近くに住んでいる先輩の家を訪ねた。

    高校一年の先輩はちょうど帰ってきたばかりで家にいた。








    「ああ、本当だとも。首のない女のお化けや片目の男の幽霊が出てきたよ。オレもちゃんと見た。それに、あの不気味なうめき声を聞いたら、当分は眠れないぞ」

    その先輩は、自分が見たときの様子を身ぶりをまじえて話した。

    「まだ信じられないわ」

    先輩の家からの帰り道、村田さんたちの否定派が言った。

    「嘘か、本当か、地下室へ入って調べてみようじゃないか」

    飯島君がもちかけた。

    彼はやや中立的ではっきりした態度は表明していなかった。

    「よし、行ってみよう」







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    【地下室の怪】の続きを読む

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    月末の残業を終え、事務室を出たのは夜の十一時に近かった。
    まったく人使いのあらい会社だ。
    部屋にはだれも残っていない。
    ドアの脇のスイッチを押すと、事務室が急に暗黒の倉庫に変わった。
    コト、コト、コト…。
    私の靴音だけが廊下に響く。
    ロッカールームはひっそりと静まりかえって、まるで西洋の死体置き場のようだ。
    「死体置き場…」
    どうしてそんな言葉を思い出したのだろうか。
    やはりN君のことが頭のどこかにのこっているのかな。








    N君は高校を終え、私といっしょにこの会社に入った。
    ひとめ見たときから気弱な印象の男だった。
    女にしたらさぞかし美人になりそうな、そんなやさしい面差しで、性格も顔立ちに負けず劣らずおとなしい。
    おとなしすぎるくらいに…。
    言っちゃあわるいが、そばにいると、ついついいじめたくなってしまう。


    そのN君が社内でも一番底意地のわるいS課長のところに配属されたんだから運がない。
    N君もずいぶんとつらい思いをしただろう。
    実際の話、S課長の新人いびりは相当なものだ。
    うわさは山ほど聞いている。
    新入社員を鍛えるというたてまえにはなっているが、本当にそれだけかどうか。
    一種のサディズムなんだな、あれは。
    やりかたもきたない。
    仕事のうえで、わざと落とし穴を作っておいて、そこへ部下が落ちるのを待っている。
    落ちたところで舌なめずりをして近寄って行って、どなり散らし、それからイジイジといやみを言う。
    へたに反抗すると、もっとひどいわなを仕掛ける。
    たまったものじゃない。

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    【オフィスの幽霊】の続きを読む

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    その夜、二匹の風邪のビールスが風に揺られて町をさまよっていた。
    雲は凍てつき、今にも雪の降り出しそうな寒い夜だった。
    「寒いな。だれか人間の体の中にもぐりこもうぜ」
    「うん。このままじゃ凍え死んでしまうぜ」
    そうつぶやきあっているとき、二人のサラリーマンが町角にに現れた。
    「あれにしよう」
    「あんまりいい男じゃないな」
    「より好みしているときじゃないぜ」
    「まあ、そうだ。二人ともいいあんばいに疲れているらしい」
    二匹は風に揺られて男たちの口元に近づき、二人が息を吸った瞬間に、スイと鼻から肺へともぐり込んだ。





    男たちの名はマジメ氏とナマケ氏。
    同じ会社に勤めるサラリーマンだった。
    マジメ氏はその名前の通り生真面目な男で、この日も夜遅くまで残業をし社宅へ帰る途中ちょっと駅前の居酒屋に立ち寄った。
    体は綿のように疲れていた。
    一方、ナマケ氏は退社時刻を待ちかねるようにして会社を出て、そのまま麻雀屋へ足を向けた。
    それがナマケ氏の日課だった。
    昨夜も一昨夜も十二時過ぎまで雀卓を囲んだ。
    「たまには少し早めにきりあげようぜ」
    「ああ、そうしよう」
    十時過ぎに麻雀屋を出て、駅前の居酒屋に立ち寄った。
    そこでマジメ氏に出会った。
    「ぽつぽつ帰ろうか」
    「ああ、オレも少し疲れた」
    「麻雀も結構疲れるものらしいな」
    「うん。仕事より疲れるぜ」
    店を出て大通りの角にさしかかったとき、折あしく二匹のビールスとめぐりあったのだった。



























    【風邪とサラリーマン】の続きを読む

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    小さな窓から見下ろすと、氷滴をいっぱいにつけた翼があった。
    飛行機はいまE山脈の上空あたりを飛んでいるのだろう。
    モクモクと一面にひろがった雲海の中に、ときおり、孤島のような山頂が頭を出している。
    私は少し眠ろうと思ったが、どうも眼がさえて眠れそうもない。
    出張先で起きた仕事のトラブルが頭の中にいつまでも残っていて、スッキリした気分になれなかった。
    長い旅行だった。
    家族たちはみんな元気でいるだろうか。
    早く家に帰って子供たちの顔が見たかった。

























    「キャンディーはいかがですか」
    急に耳元でスチュワーデスの声が聞こえたので、私は目をあげた。
    「あ」
    私は思わず小さな声をあげた。
    スチュワーデスがふり向いた。
    「どうかなさいましたか」
    私はもう一度しげしげとスチュワーデスの顔を見つめた。
    「いえ、べつに…」
    私は少なからず狼狽した。
    ゆっくり考えてみれば少しも驚くことではない。
    ただの記憶ちがいではないか。
    スチュワーデスは知人の妹によく似ていた。
    "似ている" というより多分本人だろう。
    その知人は、知人といってもそう近しいあいだがらではない。
    学校時代に親しくしていた友人・N君の、そのまた知人で、顔を見ればちょっと会釈をするような、その程度の知り合いであった。






















    そんな知人の妹なのだから、いままでに彼女と話したことはない。
    ただ、彼女の職場が私の勤務先に近いらしく、向こうは気がついていなかっただろうが、以前はよく電車の中やビル街で顔を見たことがあった。
    しかし…私の記憶では、その女はたしか何か月前に "死んだ" はずであった。
    N君といつかコーヒーを飲んだとき、
    「キミも知ってるKさんの妹、このあいだ急死してしまってね」
    こういわれて
    「ああ、そう」
    と、なにげなく答えた…そんな記憶が私にはあるのだ。
    "死んだ" 人間が、こんなところでスチュワーデスをやっているはずはない。
    人違いだろうか?
    いや、そんなことはない。
    なんども見なれた顔なのだから…。
    しかし、ゆっくり考えてみれば、そう驚くほどのことではなかった。
    つまり私の聞き違いだったのだろう。
    そう親しい知人のことではなし、N君もどこからか間違ったうわさを聞いたのかもしれない。
    それに、だれかべつのお嬢さんのこといったのを私が勘違いしたのかもしれない。
    このての勘違いは世間ではよくあることだ。仕事のことをあれこれ考えていたので、ついウッカリ妙な連想をして、思わず声をあげてしまったのだろう。


















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    【呪われた銀翼】の続きを読む

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    「うーん…」
    私たちは、その家の入り口に立ったとき思わずうめき声をあげた。
    中に入る前から強い霊気を感じたからだ。
    玄関は釘づけにされていたので、脇へまわり、くすわれかけた雨戸をこじ開けて、中へ足を踏み入れた。
    家の中はカビ臭かった。
    内部は崩れかけた戸の隙間から差し込む光で、ぼんやりと明るかった。
    私たちは手にした懐中電灯で足もとを照らしながら、あたりをうかがった。









    一階は部屋が四つに台所と風呂場、便所があり、かなり広い家であった。
    さすがに障子ははずれ、壁ははげ落ち、その荒れ方は凄まじかった。
    二階への階段が廊下のすみにつながって見えた。
    すでに傾き、風雨にくずれ落ちた壁土がところどころにこびりついている。
    はずれかけた踏み板を注意しながら上へあがると、六畳と四畳半の二間が続いていた。














    天井板ははがれ、屋根裏がのぞいている。
    そこから風がひんやりと吹き込んでいた。
    畳の上には、砂がぶちまけられたように散乱していて、歩くとジャリジャリと不気味な音をたてた。
    神経を逆なでするような、いやな感じだった。











    幽霊になって出てくる女が首を吊ったのは、六畳であったという。
    私はその六畳間に座り込んだ。
    そして、昼間聞いた近所の老人の言葉を思い出していた。
    「確かに幽霊は出るよ。あの家には、女の恨みがこもっているんだものな。うん、幽霊を見た人は何人もいる。わしだって二回見ている。白っぽい着物を着た女が庭をフラフラと歩いているのと、青白い女の顔が、二階の窓からのぞいているのをな…」
    同行の記者は落ち着かないらしく、やたらとタバコをふかしながら、部屋の中を歩きまわっていた。













    【首吊りの部屋】の続きを読む

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    「ああ、むし暑いなあ…」
    村磯良子さん(中学二年・仮名)は、寝返りをうちながら目を覚ました。
    その夜は、とてもむし暑く寝ていても汗が流れるように出て、どうしようもなかったのだ。
    良子さんたちのクラブ員は、校舎の一室を使って合宿していたのである。
    「親子…」
    良子さんはすぐわきに寝ている親友の羽生親子さん(仮名)の肩をゆさぶった。
    「眠れないわねえ…」
    親子さんも寝ていないようだった。
    二人は起き上がると、うちわを使いながら蚊を追ったり、風を送ったりしていたが、さっぱり効き目がなかった。
    だが、ほかのクラブ員たちは、猛練習にすっかり疲れきっているらしく、ぐっすり眠っていた。
    「うらやましいわねえ…」
    二人は、寝込んでいる後輩を横目で見ながら、廊下に出て窓をあけた。
    「良子、泳ごうか」
    月の光に水面が輝く、校庭のプールを見つめていた親子さんが言いだした。
    「泳いだら、きっと気持ちがよくなるわね」
    二人は部屋に引き返すと、水着を持ってそっと夜の校庭へ出ていった。
    青白い月の光がプールの水面に神秘的な美しさをもたらしていた。







    二人はだれもいないプールに入って、水しぶきをあげて泳ぎはじめた。
    二人とも水泳には自信があったので、ところ狭しとばかりに暴れまわった。
    「あっ、いやっ」
    突然、良子さんが大声をあげ、プールの中央で泳ぐのをやめた。
    「どうしたの?」
    親子さんがびっくりして声をかけた。
    「なんだか、ぬるぬるしたものが足にからみついたの」
    良子さんは、気味の悪そうに言った。
    「気のせいよっ」
    親子さんは、気にかけず泳いで良子さんのそばを通りすぎていってしまった。
    良子さんも気をとりなおして泳ぎかけたが…。













    【月夜のプール】の続きを読む

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    「先生、関係者がみんなそろいました」
    十二畳はあろうかという広い応接間に、猫神家の一族が全員集まって席に着いていた。
    天井から黄ばんだシャンデリアが垂れ、室内に影の多い光を投げかけている。
    ある者は神妙に眼を閉じ、ある者はふてぶてしく腕を組んで鼻孔をふくらませていた。
    「うむ」
    中央の席にどっかと腰をおろしているのが、あの名高い銀田一探偵。
    しかし、寄る年波には勝てず、髪は白く、入れ歯はゆるく、おまけに去年の軽い脳卒中のため、葉巻を持つ指先もワナワナと震えていた。






    「先生、ご隠居様を殺した犯人はだれでしょうか?早くその名を教えてください」
    猫神家の主人、猫神狂一郎は一ヶ月前、自宅の居室で非業な最期をとげた。
    毒薬は昔なつかしい石見銀山の猫いらず。
    就寝前に飲む煎じ薬の中にだれかが投入したらしい。
    それが、だれか?
    警察は必死の捜査を続けたが、日を重ねるにつれ迷宮入りの気配が色濃く漂うばかりであった。
    そこへ登場したのが銀田一探偵。
    推理小説の大団円さながらに、本日この席で犯人がだれか、その絵解きがおこなわれる手はずになっていた。










    「さよう」
    探偵はジロリと周囲に目を配り、おもむろにつぶやいた。
    そのポーズはいかにも堂に入っていたが、その実、探偵の頭の中にはなに一つとして目算が立っていなかった。
    犯人がだれなのか、動機はなにか、犯行の経過はどうか、なにもわかっていなかった。
    本来ならば、まだ関係者を一堂に集める段階ではないのだが、警察署長に、
    「先生、もうボツボツいかがでしょうか。現代はスピードの時代です。遅いのはきらわれます。角川書店も待っておりますし」
    と、そそのかされ、ついウッカリこの席に来てしまった。





    「えー、これは明らかな殺人である。だからして犯人は必ずいる。しかし、犯人は人間とは限らない。猫かもしれない。その時は犯人ではなく犯猫である。あるいは犬かもしれない。その場合は犯犬である。犯犬と言えば、この作品の版権はどうなるのじゃ」と、わけのわからないことを話し始めた。
    初めのうちは一座も緊張して聞いていたが、次第にしらけムードに変わった。
    「先生、先生は本当に犯人の名がわかっておいでなんですか」
    「知っちょる、知っちょる」
    「じゃあ、早く言ってください」
    「あせるな。あわてる乞食はもらいが少ない。アッハハハ」
    銀田一探偵が脳軟化を起こしているのは、言動から察して明白だ。
    こんな人に犯人を名ざすことができるのだろうか。
    しかり。
    銀田一にはもうどんなすいりをする力も残っていなかった。
    彼はただ時間かせぎの長広舌をふるうだけであった。
    あわれ、あわれ、銀田一のあのすばらしい才智も、生涯の最後において汚点を残すのだろうか。
    犯人は逃げのびるのだろうか。





    【最後の事件】の続きを読む

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    (酒場で)

    サラリーマンA   「なにがよく眠れるって…オレはセックスのあとが一番グッスリと眠れるなあ」
    サラリーマンB   「うん、まったくだ。やっぱりセックスは最良の睡眠薬だな」
    サラリーマンC   「いや、そうとも限らないぜ」
    サラリーマンA   「へえー?キミはあのあと眠くならないのか?」
    サラリーマンC   「いや、眠いことは眠いけど…とにかく起きて家に帰らなくちゃ…」



    (勉強部屋で)

    母親 「あら。入学試験が終わったのに、まだ勉強しているの?」
    小学生 「うん。こういう問題は図をかいて考えれば、すぐできるんだ」
    母親 「どんな問題なの?」
    小学生 「崖の高さは5メートル。海面からの仰角を60度とすれば、自殺するために、最低何メートルの幅とびができなければいけないか…」










    (隠居部屋で)
    おじいさん 「もう昔のことだから、おまえに打ち明けるけど、わしはおまえに隠れて一人だけよその女をかわいがったことがあるんだよ」

    おばあさん 「まあ!あたしも実を言えば、あんたに隠れて浮気した男が一人いるんですのよ」

    おじいさん 「そうかい、そうかい。おまえが正直に言うなら、わしも言うけれど、今の女とはべつにもう一人酒場の女と浮気したことがあったのう」

    おばあさん 「おじいさんがそこまで正直に言うなら、あたしだって、もう一人ほかの男と温泉旅行へ行ったことを言わなきゃ気がすみませんわ」

    おじいさん 「そうだったのかい。じゃあ、わしも言うけど、よその奥さんと二年ばかりつかあっていたことがあったわい」

    おばあさん 「あたしもよそのご主人とほんの一年ばかり…」

    おじいさん 「それじゃもう一つ…」

    おばあさん 「あら、あたしももう一人思い出したけれど…」

    おじいさん 「おまえ、もうまだるっこい話はやめにして、セエノーのかけ声でお互いに本当の数を言おうよ」

    おばあさん 「はい、はい。でも…、おじいさん。そっちはおよそどのくらいか、ちょっとだけ教えてもらわないと、……あたし、やりにくくて」



    (化粧品店で)
    お客 「この肌白クリームって、本当に肌が白くなるの?」

    主人 「ええ、もちろん。うちの家内につけさせてみたら、効果てきめん。肌の色が抜けるように白くなっちゃって…。論より証拠、オーイ、おまえ、店に顔を出してごらん」

    その妻 「はーい」

    主人 「ほら。肌がすっかり透けちゃって、血管も骨も肉も、みんな見えるでしょう」

    お客 「キャーッ!」

















    (町角で)

    奥さまA    「うちの主人はゼンソク持ちでしょう。春先はちょっと天候が不順だと、朝からゼイ、ゼイって、とても苦しみますのよ」

    奥さまB    「あら、うちの主人もそうですの。今年はとくにそれがひどいみたい」

    奥さまA    「まあ、知らなかった。おたくのご主人もゼンソクがおありなんですの?」

    奥さまB    「いえ、そうじゃないけど…ただ、中小企業を経営しているものですから…。春先はいつも朝から、税、税って、ひどい苦しみようなんですのよ」



    (電車の中で)

    サラリーマンA    「進化というものはおそろしいものだね」

    サラリーマンB    「へえー、そうかね…?」

    サラリーマンA    「うん。このあいだ集団検診でバリウムを飲んだら、オレの胃袋は牛そっくりになっているそうだ」

    サラリーマンB    「どうしてかな」

    サラリーマンA    「なにしろ通勤に片道二時間もかかるだろう」

    サラリーマンB    「うん…?」

    サラリーマンA    「毎日朝メシをかっこんでおいて、あとは電車の中でもう一度噛みなおしていたんだ」










    【ブラックジョーク大全】の続きを読む

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    「やっぱり、お金が足りないわ。ねえ、お姉さん、貸して…」
    さっきから貯金箱を振ってお金を出していた渡辺美春(十三歳)は、ふっとため息をついて言った。
    「あら、どうしたの、お母さんからもらったばかりでしょう。また無駄遣いをしたのね」
    姉の邦子は編み物の手をとめて、美春の顔を叱るように見つめた。
    「そ、そうじゃないわよ。私もたまにはいいことするのよ。困っている人に貸してあげたの」
    「そう、珍しいこともあるのね」
    「そうなのよ」
    美春はちょっと気取ったポーズをしてみせた。
    「そんないいことをしたのなら、お金が返って来るまで、買物は待つべきだわね。あなたに貸したら今度は私が困るもの…」
    「そんなこと言わないで、ねえ、やさしいお姉さま」
    美春は甘えるように姉のそばへ…。
    「だめ、その手には乗らないわよ」
    邦子は、美春をにらむまねをした。
    「ああ、困ったわ。お友だちと約束しちゃったのよ。明日、一緒に買物に行くことを…困ったわ」
    「あなた、お金をいったいだれに貸したのよ」
    「安子おばさんよ」
    「えっ、あの安子おばさん?」
    「そうよ」
    「美春!」
    とたんに、邦子の顔つきが厳しくなり、強い声で言った。
    「なによっ、どうしたの、お姉さん?」
    美春は急に怒った姉を見てびっくりして聞いた。
    「あのね、嘘をついてまで人からお金を借りようなんて、最低よ。安子おばさんは今日お昼ごろ亡くなったのよ。たがら、お母さんがいま、おばさんの家へ行っているのよ」
    「えっ!」
    「死んだおばさんが、どうしてあなたからお金を借りるのよ?」
    「だ、だって…」
    美春の顔色は真っ青に変わり、身体は小刻みにふるえだした。
    「でも、お姉さん、私の言ったこと、本当なのよ」
    美春は青い顔で次のような話を始めた。











    美春が友だち数人と学校を出たのは、午後三時ごろだった。美春たちは、明日の日曜日の買物を約束し、公園の入り口でいつものように別れたのだ。「美春ちゃん」ひとり美春が、公園の道を抜け人通りのない並木道にさしかかったとき、突然、名前を呼ばれた。 「だれ?」美春は足をとめてあたりを見まわしたが、だれもいなかった。「気のせいかしら」そう思ってふたたび歩き出したとき、また呼ぶ声がして木のかげから安子おばさんが出てきたのだ。「おばさん、どうしたの?」血のにじんだ首を痛そうにおさえているおばさんを見て、美春はびっくりした。














    【幽霊に金を貸す】の続きを読む

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    【ボケて傑作選】の続きを読む

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    「べつに動機って、ないわ。歩行者天国へ行ったらヒヨコをうっていたの。なんだかかわいくなって三羽買ってきたのよ。それがだんだん大きくなって…。二羽は死んじゃったけれど」
    女は食卓のパンをちぎっては白色レグホンのメス鳥にエサを与えていた。
    レグホンは驚いたような顔で周囲を見まわしながらエサをついばんでいる。
    「ペットがニワトリとはめずらしい」
    「意外とかわいいものよ。それに、このレグちゃん、頭がわるくないわ」
    「そうかね」
    「私が外から帰るって来ると、足音を聞いただけでちゃんとわかって、コッコ、コッコと、あまえ声をあげて鳴くのよ」
    「部屋の中で飼ってて、家主に文句をいわれないのかい」
    「このアパートは家主じゃなくて管理人だからね。鼻ぐすりをきかせてあるから大丈夫よ」
    「なるほど」







    男は一か月ほど前に女と知り合い、今では週に一、二度女のアパートに訪ねて来ては泊まっていく。女は三十二歳。月賦デパートに勤めるハイ・ミスだが、ものごとにこだわらない性格らしく、自分の年齢について深く気にやんでいるふうもなかった。部屋のすみにボロくずを敷いたダンボールの箱があって、そこがレグホンの寝床らしい。












    「このトリ、タマゴを生む?」
    「生むわよ、たまに。あたしは食べないけど」
    女はよほどこのニワトリが気に入っているのだろう。
    男が訪ねて来ているときでさえ、彼女の関心は男よりニワトリのほうに余計に向いているように思えた。
    この家では食事をするときもニワトリと一緒だ。
    ベッドで抱き合うときも、そばでレグホンがバタバタと羽根を鳴らしていた。
    男は閉口したが、女の城に訪ねて来ている以上、そう贅沢は言えなかった。
    二人の交際が長びくにつれ、男は妙なことに気がついた。
    女の仕草が少しずつニワトリじみてくるのである。
    たとえば、駅で待ち合わせをする。
    女が先に来て待っているとしよう。
    すると人混みの中でキョロキョロと前かがみになって待っている姿が、どことなく、あのレグホンに見えてくる。
    女にはおくれ毛をかきあげる癖があったが、その手つきもニワトリが爪先で胸毛をかきあげる動作にそっくりだ。
    そればかりではない。
    男が一番滅入ってしまうのは、女のまなざしが、ニワトリのキョトキョトした目つきに少しずつ似てきたことである。
    「ペットは飼い主に似てくるというけど…」
    「そう。レグちゃんも私に似て、わりとのん気で大ざっぱなタチね」
    「飼い主の方がペットに似るってことはないのかな」

    「あるかもしれないわ。どう?あたし?」
    「うん。このごろ少しずつ似てきたような気がする」
    男は苦笑いしながら本音を吐いた。
    「本望だわ」
    こう言って女はうれしそうに笑った。

              ☆

    【ニワトリを飼う女】の続きを読む

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    「麻雀が本当にうまくなると、牌をフランネルの上に滑らしただけで、その牌がなにかわかるんだぜ」
    私がまだ麻雀を習いたての頃、その道の先輩から、こんな夢みたいな話を聞かされたのを覚えています。
    「本当かい?すごいもんだなぁ」
    その頃の私は、ろくに盲牌もできないありさまでしたから、半信半疑で先輩の話をありがたく拝聴していました。
    彼は得意そうに鼻をうごめかし、
    「本当さ。牌にはいろんな文様が掘り込んであるからね。白板のようになにも彫ってない牌なら、フランネルの上をほとんどなんの抵抗もなく滑って来る。九索は縦にはよく滑るけど、横に引くと抵抗がきついんだ。九筒は縦にも横にも、どこかまるーくひっかかるところがある。それやこれやで本当の名人は牌を軽く滑らせただけで、その牌が何か、みんな読めちゃうんだ。キミも早くそうならなきゃ…」
    たしかに理屈としては、そんなことも可能かもしれません。
    しかし人間の指先は、そんなわずかな差異を感じわけるほど鋭敏なものでしょうか?
    私は根が信じやすいタチですから、この話を聞いて何度か実験してみたのですが、一番やさしそうな白板でさえ、とても私には感じ分けることができません。
    そのうち私の麻雀もいくらか上達し、事情がよくわかるようになると、
    「あんなこと、できっこない。さては、あいつにかつがれたのか」
    と真相を知って苦笑し、いつの間にかこの話自体すっかり忘れてしまいました。
    もし思い出すことがあったとしても、それは一つのジョークとして、例えば剣豪の刀の鍔がカチンと鳴っただけで目の前にいる人の首が落ちていた、といった話と同じように、いかにもありそうなバカ話として、だれかに語ったことが一度や二度あったかもしれません。












    ところが一昨夜のこと…。
    私は都内の旅館で親しい仲間二人と、それからメンツが足りないので宿の主人に加わってもらい、夜の九時過ぎからジャラジャラと卓を囲み始めました。
    雨がシトシトと降りこめ、妙にものさびしい夜でしたね。
    最初の半荘がもう終わろうという頃だったと思います。
    私は七対子の闇聴で白板を待っていました。
    言い忘れましたが、この仲間とやる麻雀はいつもマナーが厳格で、特に先自摸は絶対に許されません。
    上家が手間取っていても、せいぜい牌を河の上で滑らして自分の近くに引いておくだけの約束です。
    その時も上家が考え込んでいたので、私は、
    「遅いぞ。新聞!新聞!」
    などと言いながら、指先で牌を滑らせ手元に引き寄せたのですが、その瞬間、"あ、ひっかかる" こう感じたのです。
    牌がどこかねばっこく、卓に張ったフランネルにまとわりつくような感触でした。
    手番が来て開いてみるとそれが白板で、私は自摸和りを喜びながらも、心の中で、
    「へえー、白板がねばるのか。おかしいな」
    と思って、急に昔聞いたあの話を思い出したのです。












    これがたった一回の体験ならば、すぐに忘れてしまうのですが、その夜はどうしたわけか白板を待つケースが多く、そのたびに指先に神経を集中していると、白板のときにはかならず微妙な感触があって、それとわかるのです。
    私は心中ひそかに興奮しました。
    「あの話は本当だったんだ。オレにも白板がわかるようになったらしい。これからは滑らしただけでいろんな牌がわかるようになるかもしれないぞ」
    こう思うと同時に、もう一方では、
    「世間には、どんな名手がいるかわかりゃしない。滑らしただけで牌がわかるやつと勝負をして、オレが勝てるわけないな」
    あらためて畏怖の気持ちを抱いたりもしました。
    結局この夜の勝負は、白板がよく読めたせいかどうか、私のひとり浮きになったのですが、ゲームの終わったあとで、私は牌をつまみながら、ふと漏らしました。
    「この白板、滑らせただけでわかるね。糊でもついているみたいな感じがして…」
    すると旅館の主人が思い出したようにカレンダーを見上げて、
    「今日は五月二十六日でしたね?」
    「ええ…」
    私が怪訝な顔で聞き返すと、心なしか、主人の顔が青ざめています。
    「それが…どうかしましたか?」
    「何度も何度も洗ったはずなんですけど、変ですねえ」
    「……?」
    「いやな話ですけど、去年の今日、この部屋で麻雀をやっていて、死んだ人がいるんです。血をドップリと吐いて…」
    「本当ですか?」
    主人がゆっくりとうなずきながら、
    「白板が四枚血でベトベトにぬれちゃって…」
    【名人芸】の続きを読む

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    深夜の国道を灰色のセダンがつっ走る。
    道の両側はどこまでも黒い田んぼが続き、時折、稲の干場を作るポプラ並木が遠く近くに見える。
    そのポプラ並木がうしろへ飛んで行くとまた一面に黒い田んぼが続いた。
    自動車の中には若い男と女が二人。
    カーラジオがさわがしい音楽を鳴らしている。
    フロントガラスの片隅に赤いネオンの輝きが映り、それが次第に大きくなった。
    「あのネオン、読めるかい」
    敏彦が助手席のマユミに声を掛けた。
    マユミがシートから体を起こして眼を補足した。









    「それいゆ…ホテル…だわ」
    モーテルだな。今夜はあそこに泊まろうか」もう夕方から二百キロも走り続けている。つぎの町まではもう少し距離があるだろう。「いいわよ」マユミがセーラムを一本口にくわえて火をつけた。「"それいゆ"ってなんだい?」「フランス語で太陽のことだわ。それから、ひまわりの花もそうよ」「田舎のわりには、しゃれた名前だな」車がモーテルに近づくにつれ"それいゆホテル"の命名の由来は明らかになった。青い屋根に白い壁、モダンな造りの館のまわりには一面にひまわりの花が背の高い茎を伸ばし、その先端に重い、大きな花を揺らしている。「いかすホテルじゃないか」「まあね。こんなところでモーテルなんかやって商売になるのかしら」「うん。次の町まで一時間はあるからな。オレたちのように泊まる人もあるだろうさ。それに、ちょっとロマンチックな造りで、わるくないよ、ここは。ちょっと休んでみたくなる」「よほどひまわりの好きな人なのね」「そうらしい」
















    二人はガレージに車を入れ、鍵を受け取って部屋に入った。「あーあ、つかれちゃった」部屋に入るとマユミがベッドの上に身を投げた。ミニスカートが上に引かれて形のいい足が長く伸びる。「風呂、どうする?」「そうね。やっぱり入ろうかしら」「そうしろよ。あとから行くわ」二人が風呂からあがった時には、部屋はすっかり冷えていた。湯上がりのはだに乾いた空気が心地よい。敏彦がらあとから上がってきたマユミの体を抱きかかえてベッドへ運んだ。マユミは足をバタバタと動かしたが、ベッドに置かれて、敏彦の体が上からかぶさってくると自分も敏彦の背に手をまわして爪を立てた。「電気を消して」「ああ」スイッチを切ると窓をぬってかすかな月の光が部屋に忍び込んでくる。俊彦の手が乳房をまさぐり、それから少しずつ下に伸びた。マユミの体毛はしなやかで指先にやわらかくまとわりつく。二人の影が重なった。








    それから十分後二人はベッドに寝転がってタバコの煙を天井に吹き上げていた。「ここ、なんていうところ?」「さっききがついたんだが、このあたりは昔、刑場があったところだね」「刑場?」「そうだよ、東京の近くなら鈴ヶ森みたいなところさ」「じゃあ、昔この辺で罪人が首を斬られたわけ」「まあ、そうだ」「ウソよ。驚かさないでよ」「いや、ウソじゃない。バッグの中に旅行案内がある。そこに書いてあるよ」「ヤーねえ」そう言いながらマユミがブルっと身震いした。「どうした?寒いのかい」「ううん。そうじゃないの、あなたがそんなこと言うからよ。さっきから、だれか人に見られているようや気がしてしょうがないのよ」マユミがそう言いながら窓のほうを見た。窓にはひまわりの影が映っている。「まさか」俊彦が鍵をまわして窓をあけた。窓の外には何十本ものひまわりの花が並んでいた。そして、その花が、窓をあける音に驚いたように、急にいっせいに垂れていた首をあげた。茎の先には、何十という人の首が目を開いて……。


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    鈴木和枝(十三歳)は、隣に住む秋子(六歳)にせがまれて川へ行った。
    はじめのうちは、川岸で秋子と遊んでいた和枝も、気持ちよさそうに泳いでいる友だちを見ているうちに、どうしても泳ぎたくなってきた。
    「秋ちゃん、ここから動いてはだめよ。私、ちょっと泳いでくるわ」
    「うん」
    ここは群馬県榛名山のふもとを流れる川、八月十日のことだ。
    泳ぎには自信のある和枝は、抜き手をきって早い流れを横ぎり、向こう岸へ泳いでいった。
    岸にたどりつくと、空を見上げて深呼吸…。
    しかし、秋子のことを思い、すぐに引き返そうと再び川に飛び込んだ。
    そのとき、
    「お姉ちゃん、きてえ!」
    突然、秋子の叫び声がきこえた。
    「大変だ。子供が流されたぞ!」
    続いて、あわてた男の子の声…。




    和枝の心臓は驚きで破裂しそうになった。
    〈私が泳いでいるうちに、水の中に入ってしまったんだ〉
    「秋ちゃん!」
    和枝は、流されていく秋子を必死で追った。
    「お姉ちゃん!」
    流れに浮き沈みながら、もがく秋子の小さい手、頭、赤い花模様の服…。
    和枝はただ夢中だった。
    なんとしてでも助けなければならない。
    「秋ちゃん、しっかり!」
    和枝はようやくのことで沈みかけている秋子のそばへ近寄ることができ、手を伸ばした。
    「ああっ!」
    夢中でしがみつく秋子に、和枝も身体の自由を奪われそうだった。
    「助けてぇっ!」
    秋子を必死に支えながら和枝は叫んだ。
    このままでは二人とも溺れてしまう。
    「放していいぞっ」
    ようやく、二人の少年が泳いできて秋子をつかまえ、大声で和枝に言った。
    「お願いね」
    ほっとした和枝が、秋子を支えていた手を放した瞬間、
    「あっ!」
    手が思うように動かないのだ。
    感覚がまったくなかった。
    和枝は、なんとかして泳ごうとあせったが、だめだった。
    そのうえ、足までひきつりはじめたのだった。
    「助けてえっ!」
    和枝は、水を飲みながら助けを求めた。










    しかし、秋子を二人がかりでかかえて泳いでいる少年たちにはどうすることもできない。
    「和枝さん、もう少し頑張れっ、すぐ助けにくるから…」
    そう言われても、和枝は、さっきまで軽々と水に浮いていた自分の身体が、だんだん重くなり、水に沈んでいくのがわかった。
    冷たい水が鼻から、口から流れ込んでくる。
    やさしい母親の顔が目に浮かんでくる。
    「ああ…」
    頭がぼうっとし、あたりが暗くなってきた。
    「和枝さん、しっかりするのよ」
    突然、川底の方から、かん高い女の子の声がして、和枝は、はっとした。
    〈あっ、だれかの声が…〉
    と思いながら、また意識がうすれていく。
    「和枝さん、この浮き袋につかまって」
    ただ夢中で伸ばした和枝の手に、やわらかい浮き袋が触れた。
    「ああ…」
    和枝は、それにしがみついた。










    「和枝さん、手を放してはだめよ」
    耳もとの声が励ますが、和枝の力は次第になくなっていく。
    気が遠くなり、浮き袋から手が放れそうになるたびに、「しっかりして」と、不思議な声が励ましつづけるのだ。
    この声はいったいだれ…?
    「しっかりするんだっ」
    少年たちの知らせで、船が出され数百メートル下流で和枝は助けられた。
    気を失っていたが、浮き袋にはしっかりつかまっていたのだ。
    「私が溺れかかっていたとき、だれかが私の名前を呼んだわ」
    意識を取り戻した和枝は、母親に言った。
    「気のせいよ。あなたは浮き袋につかまっていたのよ」
    「浮き袋?」
    母のさしだす浮き袋を見た和枝は、
    「ああ…」
    あまりの驚きに再び気を失いそうになった。









    その浮き袋は、なんと昨年の夏、川で行方不明になった武藤節子のものだったのだ。
    黄と緑の縞模様のそれは、節子が大切にしていたものに違いない。
    「節子さんの…」
    そういえば、意識がうすれかけるたびに元気づけてくれた声も、確かに節子の声だった。
    節子が持ったまま行方不明になったその浮き袋がいま、どうして和枝の生命を救ったのだろうか…。
    あまりの不思議さに、和枝は再び気が遠くなるような気持ちだった。





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    もの悲しい日本海の水をまっ赤に染めて太陽が海に落ちた。
    にぎにぎしい八月が去って、波の音にも空の色にも夏の別れを告げる気配があった。
    オレたちは足元に海を見おろす崖っぷちに寝転がっていた。
    あたりは一面の松林だ。
    女は花がらのビキニ姿でエアマットの上に寝そべり、次第にかげりを増していく空を見上げていた。 
    「ねえ、さっきからシュー、シューって、空気の漏れる音がするの。
    マットに穴があいたのかしら?」
    エアマットに耳を寄せると、たしかにかすかな音が聞こえる。
    「どこかな?」
    オレたちはマットをひっくり返して穴を探したが、どこにも穴はない。
    「まああいさ。どうせこの夏かぎりで捨てるつもりだったんだ」
    「惜しくないの?」
    「もうさんざん使ったからな」
    「そうなの」
    「女は気だるそうに言って、それから急にオレの首に腕を巻きつけてきた。
    オレは軽く唇を重ねた。
    「ずいぶん熱がないのね」
    女が恨みがましく言う。
    「そうでもないさ」
    「そうよ。わかるわ」
    オレは実のところ、その女が少しいやになっていた。
    この夏知り合って、行くとこまで行った女。
    七つも年上だった。








    「あなた、あたしを捨てるつもりなのね」
    「捨てる?どうしてそんなこと言うんだ」
    オレは内心ギクリとして女を見た。
    「いいのよ。そう思っていたわ。七つも年上なんですもん。すぐにおばあさんになるわ」
    そこまでわかっていれば世話はない。
    オレは黙ってマットに寝そべった。
    シュー、シューと気掛かりな音が聞こえる。
    なんの音だろう?
    「いいのよ、それは。でもお願い。今日だけは…。もう一度しっかり抱いてほしいわ」
    女は遠い海の果てを見るようにしてつぶやく。
    「しめっぽいこと言うなよ」
    「耳障りな音ねえ、シュー、シューって」
    女はビキニの背に腕をまわし、水着のホックをはずしてマットの上に身をふせた。
    ジッと目を閉じて待っている。
    オレは仕方なく女の体に身を寄せて唇を強く吸い、それから手を静かに女の胸に移した。
    乳房には張りつめた弾力がなかった。

    手を入れてまさぐると、指の中で不思議な生き物のようにグニャグニャとくずれる。
    胸の下には、浅黒いしわが何本もこまかく波立っていた。
    シュー、シューと相変わらず音が聞こえる。
    どこかが破れているれしい。
    白かった女の太腿に小じわが寄り、薬で薄く焦がしたような黒さがあった。
    前からこんなだったろうか?
    オレは目を閉じてひそやかな部分に口づけをした。
    ビロードの感触はなく、ザラッとしたものが舌先に伝わってくる。
    「あ、あ」
    女が激しく体を震わせる。
    まるでその身動きに呼応するかのようにシュー、シュー、と空気の漏れる音が大きくなった。
    「やけに空気が漏れるなあ」
    身を起こしたオレは慄然として目を見張った。
    女の頬の肉はゲッソリと落ちて目はふかぶかと凹んでいる。
    「どうしたんだ?どこか悪いんじゃないのか」
    「いいの。目をつぶってて。今わかったわ」
    「なにが…?」
    女は力なく笑った。
    「さ、お願い。もう一度抱いてよ」
    女は病人のように力の萎えた体を預けてきた。
    張りのない醜さが女の顔にも体にもはっきりとうかがえた。
    力なく開かれた脚は、ひどくいびつなものに見えた。
    舌先にゆるんだ肌がまとわりつく…。
    もう一度目を開いたとき、女は小さいしわだらけの老婆になっていた。
    「ね、わかったでしょ。あたしの空気ぐ抜けているのよ」
    女はヨロヨロと身を起こすと崖のふちに立った。
    紙のように薄く、頼りない。
    いつしか海には風が起こっていた。
    いくぶん肌に冷たい西風がヒラヒラと女を吹き上げ、吹き落とした。
    しぼんだ女は右に舞い左に揺れ、やがて滑るように灰色の海に落ちて、いく度か波に洗われながら沈んでいった。
    雲のない夕べの空に黒い鳥が飛びかう。
    その海鳥たちが運ぶ荒い潮騒の中で小さな恋が消えていった。

    【夏の恋】の続きを読む

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    「なんだか、春子さんに悪いみたい」
    ショートヘアの少女用のかつらを手にして、道子は婆やに言った。
    十一歳の道子は、人もうらやむような美しい少女だ。
    東京の多摩川の近くにある大きな洋館に、やさしい両親や婆やにかこまれて、まるで西洋のお姫様のような生活を送っていた。
    しかし、道子には他人に言えない悩みがあった。
    それは、道子には髪の毛がないことだ。
    つややかな黒い髪は、実はかつらだったのだ。
    道子が三歳のとき、子守りの春子の過ちから頭に大火傷を負ってしまったからだ。
    春子はそのことを気にし、三年ごとに自分の髪を切ってかつらをプレゼントしつづけていた。
    「悪いなんてことあるものですか。こちらの新しいかつらは、きっとお似合いですよ」
    「でも、婆や、春子さんは死んでしまって、これは遺品なのよ」
    「なにも捨ててしまうものではありませんもの。春に向かって短い髪にしたほうがすっきりいたしますよ。それに明日はお誕生日…」
    「……」
    「さあ、替えてごらんなさいまし。新しいのと」
    婆やに言われて、道子はいままでの長い髪のかつらを取ろうとした。
    ところが、その長い髪の毛が道子の手にからみついてくるではないか。
    「どうなさいました?」
    「なんだか、このかつらには死んだ春子さんの生命がこもっているみたい」
    「まあ、お嬢さま、そんなことが…。窓から風が入ってきたからですよ」
    道子は、ようやくのことでそのかつらを取り、新しいのと取り替えた。
    「まあ、お人形さんみたい」
    婆やにほめられて、道子も鏡を見ながら、にっこり笑うのだった。








    【遺髪のかつら】の続きを読む

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    (小学校で)

    先生 「キミたち。親子の断絶ということを知っているかい?」
    生徒 「はーい。知ってます。お父さんやお母さんと、ボクたちの意見があわないことです」
    先生 「うん、そうだ。それで、どうしたら親子の断絶をなくすことができると思うかね」
    生徒 「はーい。今度の通信簿をオール5にしてください」


    (警察で)
    刑事 「キミかね。Qデパートの警備員というのは…」
    警備員 「はい、そうです」
    刑事 「万引きをした婦人客を宿直室に連れ込んで、強制わいせつ行為を働いていたんだな」
    警備員 「はい、そうです」
    刑事 「どういうつもりで、そんなことをしたんだ」
    警備員 「これには深いわけがありまして」
    刑事 「わけ?どんなわけだ」
    警備員 「はい。万引きをする女性は、みんな常習犯で、しかも生理の最中についウッカリ万引きをするケースがとてま多いんです」
    刑事 「そんなこと、キミに教えられんでよよく知っている」
    警備員 「はい。ですから私が生理を止めてあげれば、万引きをしないですむだろうと思って…」


    (料理屋で)
    客 「板前さん。このマグロ、先週食べたのと比べると、大分味が落ちるね」
    板前 「そんなことないと思いますよ」
    客 「そうかなあ」
    板前 「だって、お客さん、先週のと同じマグロなんですから」


    (広島カープ事務所で)
    選手 「代表。今年は大幅なアップを認めてくれるんでしょうね」
    代表 「いや。そのつもりはない」
    選手 「どうしてですか。チームは優勝したし、球団収入も上々だし」
    代表 「優勝したからって、そう急に年俸をアップしたんじゃ、経営が成り立たないよ」
    選手 「下位にいたときは我慢もしましたよ。しかし、今やれっきとした上位球団になったんですから」
    代表 「いーわ。上位でも下位でも、そうあまいことは言っておられん」
    選手 「それはひどい」
    代表 「知らんのかね。昔から言うじゃないか、わがチームは広島カープ。コイに上下のちがいはない…」




    (町で)

    男A   「油が足りなくてどこもみんな困っているらしい」
    男B   「まったくだ。この間も油が足りないからウェルダンは困る。レアーで我慢してくれっていうんだ」
    男A   「へえー、どこのレストランだい」
    男B   「それが町の火葬場なんだ」


    (客間で)
    客 「坊や、なにが一番好きなの?」
    坊や 「ボク、歌が一番好きなんだ」
    客 「どんな歌が好き?」
    坊や 「月の砂漠」
    客 「いい歌を知ってるね。ラクダが月の砂漠を行く歌だろ」
    坊や 「そう」
    客 「坊やは動物園でラクダを見たことがあるかな?」
    坊や 「ラクダは見たことないけど、ママのオッパイだって、ラクダのコブみたいに大きいよ」
    客 「そう。それはいいね」
    坊や 「うん。パパが王子さまになってその上にまたがるんだ」
    母親 (あわてて飛びこんで来て)「坊や、やめなさい!」


    (酒場で)
    男A   「キミの奥さんは小学校の先生なんだって?」
    男B   「うん。新婚旅行から帰ったら成績表をつけてくれたよ」
    男A   「へーえ。なんて書いてあったんだ?」
    男B   「国語は、表現力がとぼしい、って…」
    男A   「理科は?」
    男B   「生体の観察に興味があるって」
    男A   「じゃあ算数は?」
    男B   「夜通しかかって三つまでしか数えられない、って…」
























    (教室で)

    先生 「この薬品はなにか、キミたち、わかるなね」
    生徒 「はーい、わかります。それはアルコールです」
    先生 「そうだ。アルコールの性質を知っているかな?」
    生徒 「はーい、知ってます。アルコールはすぐに蒸発します」
    先生 「その通り。アルコールは蒸発しやすい薬品だ」
    生徒 「はーい。うちのお父さんもアルコールを飲んで蒸発しました」


    (公衆トイレで)
    酔っぱらい 「オーイ、助けてくれ」
    通行人 「どうしました?オシッコをしながら助けなんか呼んで…」
    酔っぱらい 「小便が止まらねえんだ」
    通行人 「そんなバカな…。あんた、壁にかかった水道のホースを握ってるんですようっ」


    (オフィスで)
    男A   「おい、このあいだ貸した金、返してくれよ。オレも困っているんだから」
    男B   「すまん、すまん。頼むからもう少しだけ待ってくれ」
    男A   「少し待てば金策がつくのか?」
    男B   「うん。当てにしていることが三つばかりあるんだ」
    男A   「その三つって、なんだい?」
    男B   「一つは金を拾うかもしれないし、もう一つはだれかが金をくれるかもしれない」
    男A   「なんだ、そんなバカなことか。残りの一つはなんだ?」
    男B   「うん。キミが死ぬかもしれない」


    (客船で)
    女A   「聞いた?大ショックよ」
    女B   「なーに?」
    女A   「きのう甲板でヨチヨチ歩きをしてた男の子がいたでしょ」
    女B   「ええ…」
    女A   「あの子がね、今朝海に落ちたんですって」
    女B   「まあ!」
    女A   「次に見つかったときは、片足がちぎれていたそうよ」
    女B   「きっと人食いザメが足を食べたのね」
    女A   「こわいわ。まるで映画のジョーズみたい」
    女B   「そう。これがホントの…あんよはジョーズねえ」









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    (午後六時)
    ある冬の日暮れどき、町の簡易食堂で若い男が一人落ち着かない様子で夕飯を食べていた。
    彼はN雄といい、ある私立大学の学生である。
    彼は今晩これからやる仕事があって、それがどうも頭から離れないのだ。
    その仕事とはガス管のノブを回し、もう一度元に戻すだけの、簡単な仕事だったが、恐ろしい仕事には違いなかった。
    ただ、その簡単で恐ろしい仕事をやりとげさえすれば、N雄には、S子とのあまい生活が約束されていた。
    彼はS子を愛していた。
    N雄は、ほとんど無意識に時計を見た。
    まだ三時間以上も時間がある。
    気がせいてならない。
    彼は今しがた買い求めた手袋に手を入れ、意味もなく握りしめてみた。
    気をまぎらわそうとして、彼は夕刊を手に取る。
    社会面には“クロロホルム魔"の記事が載っている。
    女一人のマンションを狙って入りこみ、クロロホルムをかがせて眠らせ、その間にドロボウを働くという手口らしい。
    「危険なわりには儲けは少ないんじゃないかな」
    と、N雄は思う。
    彼の仕事には危険がない。
    ふとS子の姿が彼の脳裏をかすめた。
    明日からだれかれはばかることなく彼女を抱けるのだ。





    (午後六時三十分)
    豪華なマンションの一室。
    若い女がテーブルにウイスキーを置いていた。
    白い肌、張りのある眼、胸からウエストにぬける曲線がひどくなまめかしい。
    S子である。
    S子は部屋のすみのアイス・BOXをあけ、中から一本だけ入っている炭酸水のビンを取り出した。
    栓を抜き、睡眠薬を入れ、もう一度栓をしめなおし、アイス・ボックスに戻した。
    彼女もまた、今晩起こる恐ろしい出来事を思っている。
    だが彼女にはその恐怖がどうも実感として伝わって来ないのだ。
    一つには若いN雄と同棲できる楽しさが目の前にブラさがっているせいなのだろうが、それ以上に計画がじつに巧妙に仕組まれているため、自分たちが手をくだしているような気になれないからだ。
    S子はソファに身を横たえ、二時間後にこの部屋で起こるであろうことに思いをはせる。

    時計はたぶん八時半をさしているだろう。
    このソファには中年の紳士が座っているだろう。
    S子のパトロンのA氏である。
    彼はひどくイライラしているだろう。
    いつもの約束どおり八時キッカリにマンションに来たのにS子がいないからだ。
    彼はアイス・ボックスをあけ、炭酸水を取り出し、いつものようにハイボールを作って飲み始める。
    その時に電話が鳴るだろう。
    S子自身からの電話だ。
    「ごめんなさい。ちょっと急用ができて家をあけたの。でも、もうすんだからすぐに帰るわ。冷凍庫に炭酸水があるから…あら、もう飲んでるの?じゃあ待っててね。とても寒いから部屋を暖かくしておいてね。それからあなたのおからだも…」
    A氏は電話を切り、またハイボールをかたむけるだろう。
    いつしか睡魔が襲い、彼は深々とソファに身を落とすだろう。
    時計が九時半に向かって時をきざみ、ガスストーブの火があかあと燃えているだろう…。




    (午後七時)

    S子が家を出る前にもう一度室内を見わたし、手ぬかりがないか確かめていた。
    その時、玄関のブザーが鳴った。
    ドアを開けると見知らぬ男が立っている。
    男は足を踏み入れるとドアを閉め、素早い動作でポケットからハンカチを取り出し、S子の鼻にそれを押し付けた。
    クロロホルムの臭いが漂、S子はよろめく。
    男は気を失ってグッタリしているS子にサルぐつわをかませ、手足をゆわえ、洋間のイスに縛りつける。
    それからゆっくりと室内を物色し始める。
    S子は眠ったまま…。


    (午後八時)
    町の電話ボックスでA氏がダイヤルを回していた。
    だが「リーン、リーン」といたずらに信号音が聞こえるだけで、相手が出るようすはない。
    A氏は受話器を置き舌打ちをしてつぶやいた。
    「どうしたのかな、S子は。今晩は必ず来てくれと言っていたのに…。自分のほうが留守をしているなんて…。まあ、いいや。どうせオレも今夜は行けないんだから」
    電話ボックスを出たA氏は、あわただしく師走の町へ消えていった。
    彼はS子のマンションに行かないらしい。




    (午後九時)

    N雄が白い息を吐きながら町を歩いていた。
    彼は思っていた。
    「今ごろ、S子はどこかで完全なアリバイを作っているだろう。彼女が疑われることはまずないし、疑われてもアリバイが彼女を守ってくれるさ」と。
    遠くにマンションの灯が見えて来た。
    彼はコートの襟をたてる。
    胸が高鳴る。
    いつのまにか手がすっかり汗ばんでいる。

    (午後八時半)
    S子は洋間のイスの上で目をさましていた。
    手足が縛られているので、まるで動きがとれない。
    サルぐつわのため声も出ない。
    彼女はボンヤリした頭で思っている。
    「なんということだ。他人ごとだとばかりおもっていたのに、自分がクロロホルム魔にやられるなんて…。でも、本当ならもうAさんが来ているころなんだが…」
    こう思った彼女の背筋にゾクっとするほどの冷たい恐怖が流れる。
    彼女は目を凝らして置き時計を見る。
    あの時間が近づいているのではないか。



    (午後八時四十五分)
    N雄はマンションのドアの外に立っている。
    のぞき窓のピンクの布を通して室内の光が漏れている。
    ブザーを押したが答えはない。
    「よし、Aは眠ったな」
    N雄は用意の手袋に手を包み、ドアの脇にあるガスの元栓を握る。
    ノブを半回転させ、キッカリ二分待ち、ノブを元の位置に戻す。



    同じ時刻。
    マンションの中ではS子が必死にもがいていた。
    彼女は玄関のブザーを聞いた。
    N雄がついそこまで来ているのを知った。
    だが…。
    「N雄さん。やめて!助けて!中にいるのはあたしなのよ」
    S子は一心にこう叫ぼうとしたが、サルぐつわは堅く彼女の口をとざし、声を漏らさない。
    体を動かすたびに、重いイスはガタガタと音をたてるが、それ以上はびくともしない。
    彼女の目が急に吸い込まれるように一点を見る。
    ガスストーブの火が次第に小さくなり、細くなり、「ボッ」と小さな音を残して消えた。
    恐ろしい沈黙が二分だけ室内を支配した。
    やがて「シューッ」と無気味な音が起こり、鼻をつくにおいが部屋を満たし始める。




    (午後九時四十五分)

    N雄がコートの襟を立てて町を急いでいる。
    ふと見上げた空を流星が大きく横切って消えて行った。
    彼はつぶやく。
    「あれがA氏の最後か。悪くねえ」




    消えた男 (角川文庫)
    阿刀田 高
    2014-09-08




    迷い道 (講談社文庫)
    阿刀田高
    2014-04-18














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    「こんにちは」
    独身寮のドアを押しあけて声をかけるとおばさんは日だまりにすわったまま振り向いた。
    「あら、いらっしゃい。ドアを締めてくださいな。猫が逃げるといけないから」
    膝の前に大きなシャム猫がいて、ミルクの皿から顔をあげ、胡散くさそうに私を見た。
    「このごろ、おばさん、猫に入れあげているんだって?」
    「そうよ。ま、おあがりなさいな」
    おばさんは照れくさそうに笑って乱れた髪をかきあげた。
    髪の中に白いものがめっきり目立つようになった。
    五年ほど前、おばさんのご主人と息子さんがあいついで交通事故でなくなり、おばさんはこの世にたった一人残されてしまった。
    一時はまるで魂を失ったように家に閉じこもり、来る日も来る日もなすところなく呆然と時を過ごしていたらしい。
    たまたま私の会社の独身寮で管理人を募集していたので、おばさんを推薦したところ、うまいぐあいに採用となった。
    それ以来、おばさんは独身寮の一番日当たりのいい一室をすみかにして、少し早めの老後をひっそりと暮らしていた。
    私が部屋にあがると、シャム猫は一つ大きなあくびをしてから、パッとおばさんの肩に跳びのり、そこを踏み台にして洋服ダンスの上によじ登った。
    タンスの上には朱色の座布団があって、そこが猫の寝床らしい。
    私が手を伸ばすと、猫は軽快な色を浮かべながら後ずさりをした。
    色つやの美しい、優美な姿だが、お面相のほうは陰気くさくて、私の好みではない。
    「なんだか景気悪そうな顔をしているね」
    「そんなの。目がおかしいのよ」
    そう言われてよく見ると、両眼とも白い膜が大きな目の三分の一ほどをおおい隠し、それが猫の顔立ちをひどく貧相にしている。





    「どうしたのかな」

    「明日にでもお医者さんへ行ってみようと思うの」
    おばさんはミルク皿を台所の洗い場に置くと、今度は小エビのカン詰めをあけてガラス皿に入れ、タンスの上の猫に差し出した。
    この家ではたぶん猫が主人なのだろう。
    座布団にすわったシャム猫は召使いが差し出すご馳走にちょっと鼻をふれ、あまり気乗りのしない様子で食べ始めた。
    「いやな目つきだな」
    「そう言わないでよ」
    猫は食事をしながらも、急に自分の館に現れた訪問者に細い視線を送り、半白の眼で品定めをしている。
    「チー公、どうしたの?そんな目つきになってしまって…見にくそうだねえ」
    おばさんは無愛想な猫を見上げて、しきりに話しかける。
    今となっては猫をかわいがることだけが、おばさんの生きがいなのだろう。
    リビング・キッチンの片すみには砂を入れたミカン箱が置いてあって、あれがチー公のトイレットにちがいない。
    食卓の足は無惨にささくれ立っていて、そこがチー公の爪とぎ場にちがいない。
    そして帽子掛けにかかった首輪と皮ひもは…?
    「これ、なんに使うの?」
    「首につけて散歩に連れて行くのよ」
    「まるで犬みたいだなあ」
    「外に出したら、どこへ行ってしまうかわからないわ。盗まれたら困るし…。だから毎日朝晩1時間ぐらいずつ連れて行くのよ」

    「雨の日も?」
    「そうよ。運動不足になったらかわいそうだもの」
    おばさんが心配そうに見上げると、チー公は、またも半白の薄目をあけて、私たちを見おろした。





    それから一週間たった。
    私はおばさんの独身寮の近くまで行く用があって、その帰り道またおばさんの部屋に立ち寄った。
    ドアをあけると、おばさんは先日と同じように日だまりにすわって、口移しで猫に食事を与えていた。
    「どうだった、猫の病気は?」
    「神経症なんですって。一種の孤独病ね」
    「猫のくせに、なまいきな…」
    「遊び友だちもなく、一日中こんな壁の中に押し込められていれば、猫だってやっぱり神経がおかしくなってしまうものね。それが原因で眼に白い膜が張るの」
    「そうかな」
    「でも、ぜんぜん心配ないの。よくあることなんですって…」
    おばさんは気軽くこう言って私のほうに振り向いた。
    「だから、あたしちっとも気にしてないのよ」
    そう言うおばさんの眼も半白に膜を張っていて…。












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    「いらっしゃいまし。お早いおつきで。さあ、どうぞ、おこたが暖かくなってますよ」
    宿の女中さんの案内で清子と父親は二階の部屋に通された。
    二人は写生旅行にきて、新潟と群馬の県境の早春の山々をあちこち歩き、夕方小さな宿を見つけて、そこに泊まることにしたのである。
    藁葺き屋根の古風な家だったが、部屋の障子や畳が新しいので、父親はお茶をすすりながら女中さんにたずねた。
    「いつから始めたの。この旅館は。新しいようだね」
    「はい、つい一週間ほど前からです。このお部屋にお泊まりになるのはお客さんが初めてなんですよ」
    「ほう、偶然だな」
    二人は疲れていたので、その夜ぐっすり寝込んだ。
    真夜中、清子は人の声で目を覚ました。
    じっと耳をすますと、その声はささやくようなに、
    「〜ねえさん、寒いよ」
    「私も寒いよ」
    子どもの声だった。
    染み入るような小さな声で、同じことを繰り返しているのだった。
    どうやら部屋の中で聞こえるようなので、清子はギョッとした。
    そして、思いきって電灯のスイッチを押してみた。
    ぱっと明るくなった部屋の中には、誰もいない。
    「もしや、押入れの中?」
    ふすまをあけた。
    誰もいない。
    障子を開けてみたが、暗い廊下が続いているだけだった。
    「夢だったのかしら」
    清子は、うす気味悪く思いながらも電灯を消してまた布団に入った。
    「〜ねえさん、寒いよ」
    「〜私も寒いよ」
    眠れなくなった清子の耳に、またさっきの声が聞こえてくる。
    清子は恐ろしさに震えながらも、じっと耳をすませていると、そのかすかな声は、なんと掛け布団の中からしてくるではないか。
    掛け布団をめくってみると声はやみ、掛け布団をかけると、声がしてくるのだ。
    姿はどこにも見えずに、うら悲しげな声だけが、そこからじわじわと染み出してくるのだった。
    「お、お父さん、起きて!」
    もう我慢できなくなって清子は父親をゆり起こした。









    「お父さん、声が、声が…」
    「な、なに?」
    「この布団の中から聞こえるの。子どもの声が」
    「お前、寝ぼけたんじゃないのか。そんなばかなことが…」
    「でも、ほんと、ほんとなのよ」
    「そんなに言うのなら、お父さんがそっちで寝よう」
    父親はそう言って、布団を替えた。
    「なんだ、別になんともないじゃないか」
    しばらくして父親は言った。
    しかし、清子の耳には子どもたちのあの声がはっきり残っているのだ。
    〜ねえさん、寒いよ。〜私も寒いよ〜という声が。
    翌朝、あまりくり返して言う清子の言葉に、父親は旅館の主人に聞いてみた。
    「あの掛け布団はどこで買ったのですか」
    「はあ、ちょっと言いにくいのですが、隣町の古物屋から買ったのです。資金の都合で新品が買えなかったものですから」
    と、気まずそうに答えた。
    それから、清子と父親は、その古物屋を訪ね、熱心に聞きだした。
    それは次のような話であった。





    古物屋から少し離れた町はずれに貧しい労務者の一家があった。
    秋に父親が病死し、まもなくそのあとを追うようにして、母親も病に倒れ、あとに二人の子ども、十歳の姉と七歳の弟が残されたのだ。
    役場から少しばかりの援助金がきたものの、それは父母の医薬代として、みな医者に払わなければならなかった。
    そのうえ、その日の食べるものにも困るありさまなのに、家主がしつこく家賃をとりにくるのだ。
    「家賃が払えなければ、出ていってくれ。どこへでも」
    「おじさん、私たち行くところがないの。親類もないの、いさせてください」
    「ただでこの家に住むつもりか。払えなければ金目のものを持っていってやる」
    そう言って、家主は箪笥や着物をどんどん持っていってしまった。
    かわいそうな姉と弟は、それから寒い冬の夜を、たった一枚の布団にくるまって、ふるえながらすごした。
    「姉さん、寒いよ」
    「私も寒いよ」
    二人は亡くなった両親のことを思い出しては、恋しさにさめざめと泣くのだった。
    やがて、家主はある日、そのたった一枚残された掛け布団までもはぎとり、泣きすがる二人を荒々しく雪のなかに放り出してしまった。
    それから二人は仕方なく降りしきる雪の中を観音様のお堂に向かって歩き出さした。
    しかし、薄着のうえ空腹でとうとう道端にうずくまってしまった。
    「姉さん、寒いよ」
    「私も寒いよ」
    二人は固く抱き合った。
    「姉さん、死ねばお母さんのところに行けるね」
    「そう。お父さんにも会える」
    二人の上に雪がどんどん降り積り、そのうち二人の姿は一つの雪だるまのようになってしまった。
    翌朝、見つけ出された二つの小さな死体は土地の人が観音堂の裏にある墓地に葬ってくれた。




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